雷サージ対策とSPD|電気設備を守る仕組みと選び方

電気設備・雷対策

その一撃で、設備が止まる前に

工場・ビル・店舗の設備担当者のための雷サージ対策ガイド

落雷のあと、「パソコンが起動しない」「制御盤のエラーが消えない」「機械が動かなくなった」——そんなトラブルの多くは、雷サージが電気設備に侵入したことが原因です。直撃雷でなくても、近くへの落雷で発生した過大な電圧が、電線や通信線を伝って建物内の機器を壊します。この記事では、雷サージから電気設備を守る「SPD(避雷器・サージ防護デバイス)」について、なぜ機器が壊れるのかという仕組みから、種類・選び方・設置場所・導入の進め方・点検まで、電気設備のプロが実務目線で解説します。「自社に何が必要か」を判断できる内容です。

なぜ雷で電気設備が壊れるのか

雷による機器の故障は、必ずしも建物への直撃で起こるわけではありません。むしろ多いのは、少し離れた場所への落雷によって発生する「雷サージ」が原因です。雷サージとは、落雷によって瞬間的に発生する、非常に大きな過電圧・過電流のことです。この過大なエネルギーが、電気設備に侵入して機器を破壊します。

雷サージの3つの侵入経路

雷サージは、主に次の経路から建物内へ侵入します。どこか一つを守っても、別の経路から入れば意味がありません。全体を考える必要があります。

1

電力線から

電柱や引込線に誘導された雷サージが、受電設備を通じて建物内の機器へ侵入します。

2

通信線から

電話線・LAN・インターネット回線を伝って侵入し、通信機器やサーバーを故障させます。

3

接地(アース)から

近くへの落雷で地面の電位が上がり、アースを逆流して機器に回り込むことがあります。

直撃雷と誘導雷の違い

雷サージは、大きく「直撃雷」と「誘導雷」に分けられます。この違いを理解すると、なぜSPDが必要なのかが見えてきます。

種類 発生の仕方 主な対策
直撃雷 建物や設備に直接落ちる。エネルギーが極めて大きい 避雷針(外部雷保護)で受け、安全に地面へ逃がす
誘導雷 近くへの落雷で電線・通信線に誘導される過電圧 SPD(内部雷保護)で機器への侵入を防ぐ
意外な事実:機器故障の多くは「直撃雷」ではなく「誘導雷」が原因です。避雷針があっても、誘導雷は電線を伝って機器に入り込みます。だからこそ、避雷針とは別にSPDが必要になります。

落雷は季節を問わず発生します。特に夏場の雷や、近年増えているゲリラ雷雨は、設備にとって大きなリスクです。雷を含む突発的な電気トラブルの全体像は、停電・雷・瞬低の電気トラブルもあわせてご確認ください。

「離れた場所の落雷」でも設備は壊れる

多くの担当者が誤解しているのが、「自分の建物に落ちなければ大丈夫」という点です。実際には、数百メートル〜数キロ離れた場所への落雷でも、電線や通信線に高い電圧が誘導され、建物内に侵入します。これが誘導雷です。つまり、「うちの建物に落雷した記憶はない」という施設でも、知らないうちに誘導雷を受けて、機器の寿命を縮めている可能性があります。「原因不明の故障」「なんとなく調子が悪い機器」の裏に、過去の誘導雷が隠れていることは珍しくありません。

数km

離れても侵入

誘導雷は遠方の落雷でも発生する

3経路

から侵入

電力線・通信線・接地のすべてを塞ぐ必要

数μ秒

の一瞬

一瞬の過電圧で機器が破壊される

🛡️SPD(避雷器・サージ防護デバイス)とは

SPDとは「Surge Protective Device(サージ防護デバイス)」の略で、日本語では「避雷器」とも呼ばれます。電線や通信線から侵入してくる雷サージを、機器に到達する前に地面(アース)へ逃がし、機器を守る装置です。

SPDの仕組み

SPDは、ふだんは電気を通さない「絶縁」の状態を保っています。ところが、雷サージのような異常に高い電圧がかかった瞬間だけ、電気を通す状態に切り替わり、過大なエネルギーをアースへ流します。サージが去れば、再び元の絶縁状態に戻ります。この「異常時だけ道を開く」動作によって、後ろにある機器を守るのがSPDの役割です。

ダムの放水路に近い働き:ふだんは閉じているが、水(サージ)が増えすぎたときだけ開いて安全な方向へ逃がす——SPDはそんな「安全弁」の役割を果たします。機器に流れ込む前に、余分なエネルギーを地面へ逃がすのです。

SPDが守るもの

  • 制御盤・シーケンサ(PLC)工場の生産ラインを止めないために不可欠
  • サーバー・パソコン・通信機器データ消失や業務停止を防ぐ
  • 空調・冷凍設備店舗・工場の温度管理を守る
  • 防犯・防災設備カメラ・火災報知器などの安全設備

これらは、いずれも「止まると事業に直結する」機器です。SPDは、こうした機器を雷から守る最後の砦になります。

「瞬低」や「停電」とは別物

雷にまつわる電気トラブルには、雷サージのほかに「瞬低(瞬時電圧低下)」や「停電」があります。混同されがちですが、対策する機器が異なります。雷サージは「過大な電圧が一瞬入り込む」現象で、SPDで機器を守ります。一方、瞬低や停電は「電圧が下がる・電気が止まる」現象で、こちらはUPS(無停電電源装置)や非常用発電機、バックアップ電源で備えます。つまり、雷への備えは「サージ対策(SPD)」と「電源確保(バックアップ)」の両面が必要です。SPDだけでは停電には対応できず、バックアップ電源だけではサージによる機器故障は防げません。それぞれ役割が違うことを押さえておきましょう。

🔀避雷針・避雷器・SPDの違いを整理

雷対策の話では「避雷針」「避雷器」「SPD」という言葉が入り混じり、混乱しがちです。ここで一度、整理しておきましょう。役割がまったく異なります。

名称 分類 役割
避雷針 外部雷保護 建物への直撃雷を受け止め、安全に地面へ逃がす。建物本体を守る
避雷器(SPD) 内部雷保護 電線・通信線から侵入する誘導雷を逃がし、内部の機器を守る
SPD 内部雷保護 避雷器と同じ。近年はSPD(サージ防護デバイス)の呼称が主流
よくある誤解:「避雷針を付けているから雷対策は万全」という思い込みは危険です。避雷針は建物への直撃を受け止めますが、電線を伝って入る誘導雷は防げません。機器を守るには、避雷針(外部保護)とSPD(内部保護)の両方が必要です。

外部雷保護と内部雷保護は「セット」で考える

雷保護は、「建物を守る外部雷保護」と「機器を守る内部雷保護」の2段構えで考えるのが基本です。避雷針で直撃雷を受け止めても、そのエネルギーの一部は接地を通じて建物内に回り込みます。また、誘導雷は避雷針とは無関係に電線から侵入します。だからこそ、SPDによる内部雷保護が欠かせないのです。片方だけでは、守り切れません。

🏷️SPDの種類とクラス(Ⅰ類/Ⅱ類/Ⅲ類)・選び方

SPDは、守る場所と想定するサージの大きさに応じて、クラス(試験分類)が分かれています。設置する位置によって、適したクラスが変わります。

クラスⅠ類

最も大きなサージに対応。建物の受電点(引込口)に設置。直撃雷の一部が流れ込む場所を守る。

クラスⅡ類

分電盤に設置。Ⅰ類を通過してきたサージを、さらに減衰させて機器へのダメージを抑える。

クラスⅢ類

コンセント近く・機器の直前に設置。精密機器を最終的に守る。パソコン・通信機器向け。

電源用と通信用がある

SPDには、電源線を守る「電源用SPD」と、電話・LANなどの通信線を守る「通信用SPD」があります。前述のとおり、雷サージは電力線からも通信線からも侵入します。サーバーやネットワーク機器を守るには、電源用と通信用の両方を検討する必要があります。どちらか片方だけでは、守り残しが生まれます。

選び方のポイント

  • 設置場所に合ったクラスを選ぶ受電点はⅠ類、分電盤はⅡ類、機器直前はⅢ類が基本
  • 守りたい機器の重要度で判断止まると事業に直結する機器ほど、多段階で手厚く
  • 電源用・通信用の両方を検討侵入経路をふさぎ残さない
  • 接地(アース)が適切かSPDはアースへ逃がす装置。接地が不十分だと効果が出ない
接地が命:SPDは「サージをアースへ逃がす」装置です。そのため、接地(アース)が適切に施工されていなければ、本来の性能を発揮できません。SPDの導入時は、既存の接地状態の確認もセットで行うことが重要です。

耐雷トランスという選択肢

より高い保護が求められる場合は、「耐雷トランス」という機器もあります。耐雷トランスは、変圧器(トランス)の仕組みを使って、一次側(入ってくる側)と二次側(機器側)を電気的に絶縁し、雷サージが機器側へ伝わるのを大幅に抑えます。SPDが「サージを逃がす」のに対し、耐雷トランスは「サージを伝えにくくする」アプローチです。重要な制御機器やサーバーなど、絶対に止められない設備には、SPDと耐雷トランスを組み合わせることで、より確実な保護ができます。どこまで手厚くするかは、守る機器の重要度と予算のバランスで決めます。

機器 アプローチ 主な用途
SPD サージをアースへ逃がす 受電点・分電盤・機器直前の多段階保護
耐雷トランス 絶縁でサージを伝えにくくする 絶対に止められない重要機器の手前

📍どこに設置する?多段階保護の考え方

SPDは「1か所付ければ安心」ではありません。受電点から機器の直前まで、段階的に設置して、サージを少しずつ減衰させていくのが基本的な考え方です。これを「多段階保護(段階的保護)」といいます。

1

第1段:受電点・引込口(クラスⅠ類)

建物に入る最初の地点で、最も大きなサージを受け止めます。高圧受電の場合はキュービクル周辺が対象になります。

ここで大部分のエネルギーを地面へ逃がす。
2

第2段:分電盤(クラスⅡ類)

各フロア・各エリアの分電盤に設置。第1段を通過してきたサージを、さらに小さくします。

建物内の広い範囲の機器を守る要。
3

第3段:機器の直前(クラスⅢ類)

サーバー・制御盤・精密機器の直前に設置し、最終的に残ったわずかなサージから機器を守ります。

最重要機器は、ここまで手当てすると安心。

この多段階保護によって、大きなサージを段階的に減らし、最終的に機器が耐えられるレベルまで抑え込みます。どこまで手厚くするかは、建物の規模・守りたい機器の重要度・予算によって変わります。キュービクル(高圧受電設備)を持つ工場・ビルでは、受電点からの多段階保護を設計段階で検討することが重要です。

バックアップ電源との組み合わせ:雷対策は、SPDによる「機器保護」と、停電に備える「電源確保」の両輪で考えると万全です。停電時の電源確保についてはバックアップ電源の必要性もあわせてご検討ください。

💥雷被害の実例と対策しない場合のリスク

「うちは今まで大丈夫だったから」と対策を後回しにしがちですが、雷被害は一度起きると、機器の修理費だけでは済みません。事業への影響まで含めると、被害額は想像以上に膨らみます。

💥 工場の生産ライン停止
近隣への落雷で制御盤・シーケンサが故障。生産ラインが止まり、復旧まで数日。修理費に加え、操業停止による損失が発生。
対策:受電点〜制御盤へのSPD多段階設置で、生産設備を守る。
💥 サーバー故障・データ消失
通信線から侵入した雷サージでサーバーが故障。顧客データや業務データが消失し、信用問題に発展。
対策:電源用+通信用SPDでサーバー・通信機器を保護。
💥 店舗の空調・冷蔵設備が停止
飲食店・小売店で空調や冷凍冷蔵設備が故障。営業できず、食材の廃棄損も発生。
対策:分電盤へのSPD設置で、店舗設備を広くカバー。
💥 防犯・防災設備の機能停止
防犯カメラや火災報知設備が雷で故障。肝心なときに機能しないリスク。
対策:安全設備の系統にもSPDを組み込む。

「修理費」だけでは終わらない

雷被害のコストは、故障した機器の修理・交換費だけではありません。次のような「見えないコスト」が積み重なります。

コストの種類 具体例
機器の修理・交換費 制御盤・サーバー・空調などの直接的な費用
操業停止による損失 生産・営業ができない間の売上機会の損失
復旧の人件費・時間 原因調査・修理手配・再稼働までの労力
信用の低下 納期遅延・データ消失による取引先からの信頼低下

SPDの導入費用は、こうした被害額と比べれば、はるかに小さな「保険」です。特に、止まると事業に直結する設備を持つ施設ほど、事前対策の費用対効果は高くなります。

業種別・雷対策の優先度

すべての施設が同じレベルの対策を必要とするわけではありません。「止まると何が起きるか」で優先度は変わります。自社がどこに当てはまるか、確認してみてください。

施設・業種 雷で止まると起きること 優先度
工場・製造業 生産ライン停止・納期遅延・製品廃棄 非常に高い
データセンター・IT サーバー停止・データ消失・サービス断 非常に高い
医療・介護施設 医療機器停止・入居者の安全リスク 非常に高い
飲食・小売店舗 冷凍冷蔵・空調停止・食材廃棄・営業停止 高い
オフィス・ビル PC・通信機器故障・業務停止 中〜高

特に、高圧受電設備(キュービクル)を持つ工場・ビルは、受電点から大きなサージが侵入するリスクがあり、多段階保護の設計が重要になります。自社の設備が「止まると何が起きるか」を一度整理すると、必要な対策のレベルが見えてきます。

🔧導入・工事の進め方|現地調査から点検まで

SPDの導入は、「製品を買って付ければ終わり」ではありません。建物の構造・既存設備・守りたい機器を踏まえて、最適な設計をすることが重要です。ここでは、実際の導入の流れを紹介します。

STEP 1
現地調査・ヒアリング
建物の受電方式(高圧・低圧)、既存の接地状態、守りたい機器を確認します。避雷針の有無や、過去の雷被害の履歴もヒアリングします。
STEP 2
保護設計・提案
受電点・分電盤・機器直前の多段階保護を設計。どのクラスのSPDを、どこに、いくつ設置するかを提案します。予算に応じた優先順位もご提示します。
STEP 3
設置工事
SPDの設置と、接地(アース)の確認・改修を行います。SPDは接地とセットで初めて機能するため、ここが重要な工程です。
STEP 4
定期点検・交換
SPDは雷サージを受けるたびに少しずつ消耗する「消耗品」です。多くの製品に劣化を示す表示窓があり、定期点検で状態を確認し、寿命が来たら交換します。
SPDは「消耗品」です:SPDは、大きなサージを受けると劣化し、やがて保護性能を失います。見た目は問題なくても、内部が劣化していることがあります。「付けたら終わり」ではなく、定期点検で状態を確認し、寿命が来たら交換することが、雷対策を維持するうえで欠かせません。

SPDの点検は、電気設備全体の保守点検とあわせて行うと効率的です。高圧受電設備をお持ちの場合は、高圧受電設備の点検費用もあわせてご確認ください。また、雷を含む停電全般への備えは停電対策の記事もご参照ください。

見積もり時に確認したいこと

SPD導入を業者に相談するときは、次の点を確認すると、過不足のない対策ができます。「とりあえず1個付ける」では、守り残しが生まれることがあります。

  • どの経路を守るか電源線だけか、通信線も含むかを確認する
  • 何段階の保護か受電点・分電盤・機器直前のどこまで対応するか
  • 接地の確認・改修が含まれるかSPDは接地とセットで機能する
  • 点検・交換の体制消耗品であるSPDの継続対応があるか
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現地調査で最適設計

建物・設備・接地状態を確認し、過不足のない保護を設計します。

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接地までまとめて対応

SPDの効果を左右する接地の確認・改修も一括で対応します。

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点検・交換まで継続

消耗品であるSPDの点検・交換も、保守契約でサポートします。

📝まとめ・よくある質問

この記事のまとめ

  • 機器故障の多くは直撃雷ではなく、電線・通信線から侵入する「誘導雷(雷サージ)」が原因
  • SPD(避雷器・サージ防護デバイス)は、雷サージをアースへ逃がして機器を守る装置
  • 避雷針(外部=建物保護)とSPD(内部=機器保護)は役割が違い、両方が必要
  • SPDはクラスⅠ〜Ⅲに分かれ、受電点・分電盤・機器直前に多段階で設置する
  • 雷サージは電力線・通信線の両方から侵入。電源用・通信用の両方を検討する
  • SPDは接地とセットで機能。接地が不十分だと効果が出ない
  • SPDは消耗品。定期点検と寿命交換で、雷対策を維持する

Q&A|雷サージ対策・SPDでよくある疑問

Q. 避雷針があればSPDは不要ですか?
A. いいえ。避雷針は建物への直撃雷を受け止めますが、電線から侵入する誘導雷は防げません。機器を守るにはSPDが別途必要です。
Q. SPDはどこに付ければいいですか?
A. 受電点(クラスⅠ類)、分電盤(クラスⅡ類)、機器直前(クラスⅢ類)の多段階設置が基本です。守りたい機器の重要度に応じて範囲を決めます。
Q. SPDに寿命はありますか?
A. あります。SPDはサージを受けるたびに消耗する消耗品です。多くは劣化表示があり、定期点検で状態を確認し、寿命が来たら交換します。
Q. 既存の建物にも後付けできますか?
A. できます。分電盤への増設など、既存設備に合わせた設置が可能です。まずは現地調査で最適な方法をご提案します。
Q. 費用はどれくらいかかりますか?
A. 建物の規模・守る機器の数・保護の段階数によって変わります。現地調査のうえ、優先順位をつけた見積もりをご提示します。

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