工場の電気容量の目安と正しい計算方法|設備投資で失敗しないための完全ガイド

はじめに

工場を新設・増設する際、意外と見落とされがちなのが「電気容量」の確認です。製造ラインの設計や設備選定に注力するあまり、電気容量の確認が後回しになり、いざ稼働直前になって「電気容量が足りない」と判明するケースは少なくありません。

電気容量が不足すると、営業中にブレーカーが落ちて生産ラインが停止したり、新規設備が導入できなかったり、最悪の場合は工場の稼働開始が遅れるといった深刻な事態を招きます。また、容量不足を解消するための追加工事には多額の費用と時間がかかります。

一方で、過剰な電気容量を契約すると、基本料金が無駄に高くなり、ランニングコストを圧迫する要因となります。

本記事では、電気設備工事51年の実績を持つ斎木電気設備が、工場に必要な電気容量の目安と正しい計算方法を徹底解説します。工場の規模別・業種別の具体的な目安から、実務で使える計算方法、電気容量が足りない時の対処法まで、現場で本当に役立つ情報をお届けします。

工場の電気容量とは?基礎知識

電気容量の基本:kW、A、Vの関係

電気容量を理解するには、まず基本的な単位の関係を押さえておく必要があります。

基本の計算式:

  • W(電力)= A(電流)× V(電圧)
  • 1000W = 1kW(キロワット)

例えば、100V(ボルト)で10A(アンペア)の電流が流れる場合、消費電力は1000W(1kW)となります。同じ1000Wの機器でも、200Vで使用すれば5Aの電流で済むため、より効率的に電力を供給できます。

工場では大型機械が多いため、三相200Vや三相400Vといった高電圧を使用するのが一般的です。

低圧・高圧・特別高圧の違い

工場の電気容量は、規模によって受電方式が変わります。

受電方式契約電力の目安対象施設
低圧電力50kW未満小規模工場、町工場
高圧電力50kW~2,000kW未満中小規模の工場、中規模ビル
特別高圧電力2,000kW以上大規模工場、大型製造拠点

低圧電力は、そのまま使用できる電圧で供給されるため、受変電設備が不要です。一方、高圧電力以上では、6,600V以上の高電圧を受電し、工場内で使用できる電圧に変換する「キュービクル(高圧受変電設備)」の設置が必要になります。

契約電力と最大需要電力

工場の電気代は「基本料金」と「従量料金」で構成されており、基本料金は契約電力によって決まります。

契約電力は、直近12ヶ月間の最大需要電力(デマンド値)で決定されます。最大需要電力とは、30分ごとの平均使用電力のピーク値のことです。

つまり、一度でも大きな電力を使用すると、その後12ヶ月間は高い基本料金を支払い続けることになります。そのため、工場では「ピークカット」や「ピークシフト」によって最大需要電力を抑える工夫が重要です。

工場規模別の電気容量目安

小規模工場(契約電力50kW未満)

対象:従業員5~20名程度、作業場面積100~300㎡の町工場や小規模製造業

主な電気設備:

  • 照明設備:5~10kW
  • 空調設備:10~15kW
  • 小型工作機械・動力設備:15~20kW
  • その他(オフィス機器等):5kW

合計目安:35~50kW

小規模工場では低圧受電で対応できるケースが多く、受変電設備(キュービクル)の設置は不要です。ただし、溶接機や大型コンプレッサーなど瞬間的に大電力を消費する設備がある場合は、余裕を持った容量設定が必要です。

中規模工場(契約電力50~500kW)

対象:従業員20~100名程度、作業場面積300~1,500㎡の製造工場

主な電気設備:

  • 照明設備:10~30kW
  • 空調設備:30~80kW
  • 製造ライン・工作機械:100~300kW
  • コンプレッサー・動力設備:30~80kW
  • その他(オフィス、倉庫等):10~20kW

合計目安:180~510kW

中規模工場では高圧受電が標準となり、キュービクルの設置が必須です。変圧器容量は150kVA~500kVA程度を組み合わせて使用します。製造ラインの稼働状況や設備の同時使用率を考慮した需要率の設定が、適切な容量選定のカギとなります。

大規模工場(契約電力500kW以上)

対象:従業員100名以上、作業場面積1,500㎡以上の大型製造拠点

主な電気設備:

  • 照明設備:50~100kW
  • 空調設備:100~300kW
  • 製造ライン・大型機械:500~2,000kW以上
  • クリーンルーム設備:100~500kW(半導体・精密機器工場の場合)
  • その他付帯設備:50~100kW

合計目安:800~3,000kW以上

契約電力が2,000kW以上になると特別高圧受電となり、電力会社との協議制で契約内容が決定されます。大規模工場では、生産計画に基づいた詳細な電力シミュレーションと、将来の設備拡張を見越した容量設計が不可欠です。

業種別・設備別の電気容量目安【工場特化】

工場の電気容量は、業種や製造内容によって大きく変わります。ここでは代表的な業種別の特徴と必要な電気容量の目安を解説します。

食品加工工場

特徴:冷蔵・冷凍設備と衛生設備に大容量が必要

主要設備と消費電力:

  • 業務用冷蔵庫・冷凍庫:5~15kW/台
  • 製氷機:3~10kW/台
  • 食品加工機械(ミキサー、カッター等):3~20kW/台
  • 殺菌・洗浄設備:10~30kW
  • 空調設備(温度・湿度管理):30~100kW

1,000㎡工場の目安:150~300kW

食品工場では、冷蔵・冷凍設備が24時間稼働するため、常時高い電力を消費します。また、HACCPなどの衛生管理基準に対応した空調・換気設備も電力消費の大きな要因です。

金属加工工場

特徴:工作機械と溶接設備に大容量が必要

主要設備と消費電力:

  • NC旋盤・マシニングセンター:10~30kW/台
  • プレス機:20~100kW/台
  • 溶接機:5~50kW/台
  • コンプレッサー:15~75kW
  • 集塵機・換気設備:10~50kW

1,000㎡工場の目安:200~400kW

金属加工工場では、大型工作機械の始動時に大きな突入電流が流れるため、瞬間的な電力需要が高くなります。デマンド監視装置を導入し、設備の起動タイミングを分散させることで、契約電力を抑える工夫が有効です。

プラスチック成形工場

特徴:射出成形機と乾燥設備に大容量が必要

主要設備と消費電力:

  • 射出成形機:30~200kW/台(機種により大きく変動)
  • 乾燥機・予熱機:10~50kW
  • 金型温度調節機:5~20kW/台
  • 粉砕機:5~30kW
  • 冷却水循環ポンプ:3~15kW

1,000㎡工場の目安:250~500kW

射出成形機は機械の大きさによって消費電力が大きく変わります。大型成形機では1台で200kW以上消費することもあり、複数台稼働する場合は相当な電気容量が必要です。

印刷・包装工場

特徴:印刷機と乾燥設備、空調に大容量が必要

主要設備と消費電力:

  • オフセット印刷機:20~100kW/台
  • 乾燥装置:30~150kW
  • 製本・加工機:10~50kW
  • 空調設備(温湿度管理):50~150kW
  • 照明設備(高演色性):20~50kW

1,000㎡工場の目安:200~450kW

印刷工場では、印刷品質を保つために温度・湿度の厳密な管理が求められ、空調設備の電力消費が大きくなります。また、印刷インクの乾燥工程では大型乾燥機が連続稼働するため、電力使用量が増加します。

工場の電気容量の正しい計算方法

ここからは、実務で使える電気容量の計算方法を、具体的なステップで解説します。

STEP1:設備リストアップと総容量の算出

まず、工場内で使用するすべての電気設備をリストアップし、それぞれの定格消費電力を確認します。

チェック項目:

  • 製造設備(工作機械、成形機等)
  • 動力設備(コンプレッサー、ポンプ等)
  • 空調設備(エアコン、換気扇)
  • 照明設備
  • オフィス機器
  • その他付帯設備

各設備の銘板や仕様書に記載されている定格電力(kW)を合計すると、総容量が算出できます。

例:中規模金属加工工場の総容量

  • NC旋盤3台:20kW × 3 = 60kW
  • プレス機2台:50kW × 2 = 100kW
  • コンプレッサー:30kW
  • 溶接機2台:15kW × 2 = 30kW
  • 空調設備:40kW
  • 照明設備:15kW
  • その他:10kW

総容量:285kW

STEP2:需要率の設定

すべての設備が同時にフル稼働することは通常ありません。そのため、実際の運用を考慮した需要率を設定します。

設備種別ごとの標準需要率:

  • 照明設備:80~90%
  • 空調設備:60~70%
  • 動力設備(連続運転):50~70%
  • 動力設備(断続運転):40~50%
  • OA機器:30~40%

工場全体の総需要率の目安:

  • 小規模工場:60~70%
  • 中規模工場:50~60%
  • 大規模工場(24時間稼働):60~80%

STEP3:想定最大需要電力の計算

総容量に需要率を掛けることで、想定最大需要電力を算出します。

計算式: 想定最大需要電力(kW)= 総容量(kW)× 需要率(%)÷ 100

先ほどの例で計算: 285kW × 55%(中規模工場の需要率)÷ 100 = 約157kW

STEP4:余裕率の設定

想定最大需要電力に対して、将来の設備増設や一時的な電力増加に対応するため、余裕率を設定します。

余裕率の目安:

  • 標準的な施設:20~30%
  • 将来の拡張予定あり:30~40%
  • 大型モーター等の始動電流が大きい設備がある場合:40~50%

計算式: 必要電気容量(kW)= 想定最大需要電力(kW)× (1 + 余裕率)

先ほどの例で計算(余裕率30%): 157kW × 1.3 = 約204kW

STEP5:契約電力の決定

計算結果をもとに、実際の契約電力を決定します。

高圧受電の場合、キュービクルに搭載する変圧器は既製品を使用するため、JIS規格で定められた標準容量から選択します。

標準変圧器容量: 50kVA、75kVA、100kVA、150kVA、200kVA、300kVA、500kVA、750kVA、1000kVA

先ほどの計算例(204kW)の場合、200kVA~300kVAの変圧器を選定します。変圧器1台では足りない場合や、電灯電力と動力電力を分ける場合は、複数台を組み合わせることも可能です。

実際の選定では、電気工事の専門家と協議しながら、最適な容量と構成を決定することをお勧めします。

電気容量が足りない時の対処法

工場を稼働させてから「電気容量が足りない」と気づくケースもあります。ここでは、電気容量不足への具体的な対処法を解説します。

1. キュービクル増設・変圧器の追加

最も確実な方法は、キュービクルの増設や変圧器の追加です。

メリット:根本的に電気容量を増やせる デメリット:工事費用が高額(300万円~1,000万円以上)、工事期間が必要

既存のキュービクルに変圧器を追加できるスペースがあれば、比較的低コストで対応可能です。スペースがない場合は、キュービクルの増設や更新が必要になります。

2. 高圧受電への切り替え

低圧受電(50kW未満)の小規模工場で容量不足が生じた場合、高圧受電への切り替えが有効です。

メリット:大幅な容量増加が可能、電力単価が下がる デメリット:キュービクル設置費用が必要(500万円~)、保安管理が必要

電力使用量が増えている場合、長期的には高圧受電の方がコスト効率が良いケースも多いため、費用対効果を検討しましょう。

3. デマンド監視装置の活用

設備の稼働状況を監視し、最大需要電力を抑える方法です。

メリット:比較的低コスト(50万円~200万円)、契約電力の削減につながる デメリット:根本的な容量増加にはならない

デマンド監視装置を導入すると、リアルタイムで電力使用量を監視し、設定値を超えそうになるとアラートを発します。これにより、設備の一時停止や稼働調整で最大需要電力を抑えることができます。

4. 設備稼働時間の分散(ピークシフト)

大型機械の起動タイミングをずらすことで、ピーク電力を抑える運用改善です。

メリット:コストがかからない デメリット:作業効率が低下する可能性がある

例えば、大型モーターを使用する複数の設備がある場合、始動時間を5~10分ずらすだけで、突入電流が重ならず最大需要電力を抑えられます。

5. 省エネ機器への更新

古い設備を省エネ型に更新することで、消費電力を削減します。

更新効果の高い設備:

  • 照明のLED化:消費電力50~70%削減
  • インバーター制御のコンプレッサー:消費電力30~50%削減
  • 高効率モーター:消費電力10~30%削減

省エネ設備への更新には補助金制度を活用できるケースも多いため、積極的に検討しましょう。

電気容量を最適化するポイント

将来の設備拡張を見越した設計

工場の電気設備は、目先の必要量だけでなく、5~10年先の事業計画を見据えて設計することが重要です。

後からキュービクルを増設すると、初期段階で余裕を持って設計する場合の2~3倍のコストがかかることもあります。建物の構造上、増設スペースを確保できないケースもあるため、新設時に将来の拡張性を考慮しておきましょう。

電力監視システムの導入

電力の「見える化」は、無駄な電力消費の発見と改善につながります。

導入メリット:

  • リアルタイムで電力使用状況を把握
  • 設備ごとの消費電力を分析
  • 最大需要電力の予測とアラート
  • 省エネ効果の定量的な評価

近年は、クラウド型の電力監視システムも登場しており、初期投資を抑えて導入できるようになっています。

契約電力の適正化

使用実態に合わせて契約電力を見直すことで、基本料金を削減できます。

設備の廃棄や稼働状況の変化により、実際の最大需要電力が契約電力を大きく下回っている場合、電力会社との契約見直しを検討しましょう。ただし、契約電力を下げすぎると、繁忙期に容量不足になるリスクもあるため、過去1年間のデマンド推移を分析した上で判断することが重要です。

よくある質問(FAQ)

Q1:工場の電気容量はどうやって確認できますか?

工場内に設置されているキュービクルや分電盤のブレーカーに、契約電力やアンペア数が記載されています。確認できない場合は、電力会社の検針票や契約書類を確認するか、電力会社に問い合わせてください。また、電気設備の専門業者に現地調査を依頼することで、正確な容量と余裕度を把握できます。

Q2:電気容量が不足するとどうなりますか?

電気容量が不足すると、以下のようなトラブルが発生します。

  • ブレーカーが頻繁に落ちる
  • 製造ラインが突然停止する
  • 新規設備が導入できない
  • 電圧降下により機械の動作が不安定になる
  • 電気火災のリスクが高まる

特に製造業では、ブレーカー遮断による生産停止は大きな損失につながるため、早急な対処が必要です。

Q3:電気容量を増やす工事の費用はどのくらいですか?

工事内容によって大きく異なりますが、目安は以下の通りです。

  • 変圧器の追加:200万円~500万円
  • キュービクルの増設:500万円~1,000万円
  • 低圧から高圧への切り替え:500万円~1,500万円
  • 特別高圧受電設備の新設:2,000万円~5,000万円以上

既存設備の状況や電力会社との協議内容によって費用は変動するため、複数の専門業者から見積もりを取ることをお勧めします。

Q4:電気容量増設に補助金や支援制度はありますか?

省エネ設備への更新を伴う場合、以下の補助金制度を活用できる可能性があります。

  • 省エネルギー設備投資促進事業費補助金
  • ものづくり補助金(設備投資型)
  • 地方自治体の独自補助金

特に、高効率変圧器や省エネ型設備への更新は、補助率1/3~1/2の支援を受けられるケースもあります。申請には事前の計画書作成が必要なため、早めに専門家に相談しましょう。

Q5:電気設備の法定点検は必要ですか?

高圧受電設備(キュービクル)を設置している場合、電気事業法により法定点検が義務付けられています。

点検義務:

  • 月次点検:毎月1回
  • 年次点検:年1回(停電を伴う精密点検)

点検を怠ると、30万円以下の罰金が科せられるほか、火災や感電事故のリスクが高まります。電気主任技術者の選任または外部委託により、適切な保安管理を行うことが重要です。

まとめ

工場の電気容量は、事業の成長と安全な操業を支える重要な基盤です。適切な容量を選定することで、生産性の向上、コスト削減、そして将来の事業拡大にスムーズに対応できます。

本記事のポイントをまとめます:

  1. 工場規模に応じた電気容量の目安を把握する(小規模35~50kW、中規模180~510kW、大規模800kW以上)
  2. 業種・設備の特性を考慮した容量計算が重要
  3. 需要率・余裕率を適切に設定し、過不足のない容量を選定
  4. 将来の拡張性を考慮した設計で、後からの高額な増設工事を回避
  5. 電力監視システムの導入で、無駄な電力消費を削減

電気容量の選定や既存設備の増強は、専門的な知識と経験が必要な分野です。計算だけでは判断できない現場の状況や、電力会社との協議、法令遵守など、多くの要素を総合的に検討する必要があります。