「ある日突然、ビルの全館が停電し、業務が完全にストップしてしまった」
「テナントから空調が効かないとクレームが入り、調べたら受変電設備の故障だった」
これらは決して他人事ではありません。電気設備の不具合は、事業活動に深刻なダメージを与えるだけでなく、最悪の場合は火災や感電といった人命に関わる事故を引き起こす可能性があります。
ビルや工場、商業施設などを管理する皆様にとって、電気設備の「法定点検」は避けて通れない義務です。しかし、「具体的に何をすればいいのか?」「費用や頻度は?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
本記事では、創業51年、総施工数20,000件超の実績を持つ「有限会社斉木電気設備」が、電気事業法に基づく法定点検の義務、種類、そして実務的な準備や対応について、専門家の視点から徹底解説します。リスクを回避し、安全に施設を運用するための手引きとしてご活用ください。
目次
- 1. 電気設備の法定点検とは?【基礎知識】
- 2. 点検対象となる電気工作物
- 3. 法定点検を怠った場合のリスク
- 4. 電気保安点検の種類と内容
- 5. 年次点検(法定停電)の準備【実践編】
- 6. 点検報告書の見方と対応
- 7. 点検頻度を減らせる条件
- 8. 電気主任技術者の選任と外部委託
- 9. 季節ごとの注意点【斉木電気設備からのアドバイス】
- 10. よくあるトラブル事例【51年の実績から】
- 11. 斉木電気設備の強み
1. 電気設備の法定点検とは?【基礎知識】
電気設備の法定点検とは、電気事業法という法律に基づいて実施が義務付けられている点検業務のことです。これは任意のメンテナンスではなく、建物のオーナーや管理者に課せられた法的義務です。
電気は目に見えませんが、非常に強力なエネルギーを持っています。管理が不十分だと、漏電による火災や感電事故、あるいは地域の電力供給網にまで影響を及ぼす「波及事故」につながる恐れがあります。こうした事故を防ぎ、公共の安全を確保するために、国は厳しい基準で点検を義務化しているのです。
対象となる施設は多岐にわたり、オフィスビル、工場、商業施設、病院、学校など、一定規模以上の電気設備を持つほとんどの建物が含まれます。
2. 点検対象となる電気工作物
法定点検の対象となるのは、主に「自家用電気工作物」と呼ばれる設備です。
自家用電気工作物とは
電力会社から600Vを超える高圧(多くの場合は6,600V)で電気を受電している設備を指します。具体的には、屋上や駐車場、建物の地下などに設置されている「キュービクル(高圧受変電設備)」などがこれに該当します。
一般用電気工作物との違い
一般家庭や小規模な店舗など、電力会社から100Vや200Vの低圧で電気を受けている設備は「一般用電気工作物」と呼ばれ、これらは電力会社側が保安の責任を持つため、設置者による法定点検の義務は原則ありません(ただし、安全使用の義務はあります)。
一方で、高圧で受電する「自家用電気工作物」は、設置者(オーナーや事業者)が自らの責任において保安体制を整え、点検を実施しなければなりません。これが大きな違いです。
3. 法定点検を怠った場合のリスク
「コストがかかるから」「今のところ問題ないから」といって点検を怠ることは、極めて高いリスクを伴います。
主なリスク要因
- 法的リスク(罰則):
法定点検を実施しない、あるいは電気主任技術者を選任しない(委託しない)場合、電気事業法違反となり、300万円以下の罰金等が科される可能性があります。 - 事業継続リスク:
予期せぬ設備の故障により、突然の停電が発生します。工場のライン停止、オフィスの業務中断、商業施設の営業停止など、経済的損失は計り知れません。 - 安全リスク:
絶縁劣化による火災事故や、従業員・利用者の感電事故につながります。さらに、自社の設備不良が原因で近隣一帯を停電させる「波及事故」を起こした場合、多額の損害賠償を請求されることもあります。
4. 電気保安点検の種類と内容
電気保安点検には、主に「月次点検」「年次点検」「臨時点検」の3種類があります。それぞれの目的と内容を理解しましょう。
月次点検(毎月または隔月)
設備を運転したままの状態(活線状態)で行う点検です。原則として毎月1回実施します。
- 内容:目視による設備の異音・異臭・変色の確認、計器による電圧・電流・電力の測定、漏洩電流の測定など。
- 所要時間:設備の規模によりますが、通常30分〜1時間程度です。
- 目的:日常的な運転状態に異常がないかを早期に発見します。
年次点検(年1回の精密点検)
原則として年に1回、設備を停止させて(停電して)行う精密点検です。いわゆる「法定停電」を伴います。
- 内容:高圧受電設備の絶縁抵抗測定、保護継電器(リレー)の動作試験、接地抵抗測定、機器内部の清掃・増し締めなど。
- 所要時間:半日〜1日程度。業務への影響を避けるため、休日や夜間に実施されることが一般的です。
- 目的:普段確認できない機器内部や絶縁性能を詳細に検査し、事故の未然防止を徹底します。
臨時点検
特定の状況下で必要に応じて実施する点検です。
- 台風、地震、雷、大雪などの自然災害後
- 設備に異常が発生した場合
- 設備の変更や増設を行った場合
5. 年次点検(法定停電)の準備【実践編】
年次点検には全館停電が伴うため、入念な事前準備が不可欠です。弊社での経験に基づき、スムーズな実施のための手順をご紹介します。
事前準備(1〜2ヶ月前から)
- 点検日時の決定(業務への影響が少ない日程を調整)
- テナントや利用者、従業員への停電通知
- 停電の影響範囲の確認(エレベーター、自動ドア、給水ポンプなど)
- 警備会社への連絡(発報防止のため)
停電3日前〜前日
- サーバーや重要データのバックアップ
- PCや精密機器のシャットダウンリストの作成
- 冷蔵・冷凍設備の保冷対策
- 非常用発電機がある場合は燃料の確認
停電当日
点検開始時刻に合わせて、予定通り機器をシャットダウンします。特にパソコンやサーバーは、いきなり電源が落ちると故障の原因になるため、必ず手順通りに終了させてください。必要に応じて、点検業者による停電操作に立ち会います。
復旧後
点検終了後は、ブレーカーを投入して復電します。復電時は過電流が流れることがあるため、機器のスイッチはOFFにしておき、順次立ち上げていくのが安全です。全ての設備が正常に動作するか、必ず確認を行ってください。
6. 点検報告書の見方と対応
点検終了後には「点検報告書」が提出されます。ここには設備の健康状態が記されていますが、特に注視すべきは以下の2点です。
指摘事項
法令や技術基準に適合していない状態です。感電や火災の危険性が高く、電気事業法違反の状態とも言えます。直ちに改修・修理が必要です。予算の有無に関わらず、最優先で対応しなければなりません。
指導事項
法令違反ではありませんが、経年劣化が進んでおり、近い将来故障する可能性がある箇所です。計画的な更新や修繕が推奨されます。放置すると突発的な事故につながるため、予算を確保し、次回の点検までには対応計画を立てることが望ましいでしょう。
7. 点検頻度を減らせる条件
コスト削減や業務効率化の観点から、年次点検の頻度を見直したいというご相談をよくいただきます。一定の厳しい条件を満たせば、停電を伴う年次点検を「3年に1回」に延長することが可能です。
主な要件
- 高圧変圧器が柱の上などに設置されておらず、点検が容易であること。
- 高圧負荷開閉器等に、信頼性の高い機器(可燃性絶縁油を使用していないもの等)が使用されていること。
- 地絡遮断器等の保護装置が適切に設置されていること。
- その他、経済産業省が定める保安上の要件を満たしていること。
また、これらの条件を満たした上で、停電しない年の点検では「無停電点検」を実施する必要があります。これは、超音波測定や赤外線サーモグラフィなどを用いて、活線状態で機器の異常を診断する技術です。
8. 電気主任技術者の選任と外部委託
自家用電気工作物を設置する者は、保安監督の責任者として「電気主任技術者」を選任しなければなりません。これには2つの方法があります。
自社選任
社員として有資格者を雇用し、選任する方法です。大規模な工場やビルでは一般的ですが、採用コストや人件費がかかります。
外部委託(多くの事業者が選択)
電気管理技術者や電気保安法人(弊社のような専門業者)に保安業務を委託する方法です。実際に、国内の小規模〜中規模の高圧受電設備の9割以上がこの外部委託制度を利用しています。
メリット:
専門知識を持ったプロに任せられるため安心であり、自社で有資格者を雇用するよりも大幅にコストを抑えられます。
9. 季節ごとの注意点【斉木電気設備からのアドバイス】
電気設備のトラブルには季節性があります。51年の経験から、特に注意すべきポイントをお伝えします。
| 季節 | 注意点と対策 |
|---|---|
| 梅雨(6〜7月) | 湿気が多くなるため、絶縁劣化(漏電)のリスクが高まります。また、雨漏りによるキュービクル内への浸水にも注意が必要です。 |
| 夏季(7〜9月) | 空調の使用で電力負荷が最大になり、トランス等の温度上昇による故障が増えます。また、雷による過電圧(サージ)被害も多発します。 |
| 台風(8〜10月) | 強風による飛来物での破損や、豪雨による冠水リスクがあります。事前の臨時点検を推奨します。 |
| 冬季(12〜2月) | 暖房器具の使用による負荷増加に加え、小動物(ネズミや猫)が暖を求めてキュービクル内に侵入し、感電・短絡事故を起こすケースが増えます。 |
10. よくあるトラブル事例【51年の実績から】
私たちが実際に現場で対応したトラブル事例をご紹介します。これらは定期点検を適切に行うことで防げるものがほとんどです。
事例1:ブレーカーの接触不良で火災寸前
ある工場の年次点検中、配線用遮断器の端子部分が異常に発熱しているのをサーモグラフィで発見しました。原因はネジの緩みによる接触不良でした。そのまま放置していれば端子が溶断し、火災に至っていた可能性が高い事例です。増し締めと部品交換を行い、事故を未然に防ぎました。
事例2:絶縁劣化による漏電で全館停電
築30年のビルで、雨の日に突然全館停電が発生。調査の結果、高圧ケーブルの絶縁被覆が経年劣化でひび割れ、そこから雨水が浸入して地絡(ショート)していました。「指導事項」としてケーブル更新を提案していましたが、予算の都合で先送りにされていたケースでした。
事例3:法定停電の準備不足でデータ消失
法定点検の際、テナント様への周知が徹底されておらず、稼働中のサーバーが強制終了してしまいました。幸いデータ復旧はできましたが、テナント様との信頼関係に関わる問題となりました。事前周知と準備の重要性を痛感する事例です。
まとめ
電気設備の法定点検は、単なる「法律だから守らなければならない義務」ではありません。皆様の大切な資産である建物と、そこで働く人々、利用する人々の安全を守るための重要な「投資」です。
定期的な点検と適切なメンテナンスを行うことで、突発的な事故を防ぎ、設備の寿命を延ばし、結果としてライフサイクルコストを抑えることにつながります。