建築基準法に適合した非常用発電機の設置は、建物の安全確保に不可欠です。しかし、複雑な法規制や技術的な要件を理解するのは容易ではありません。この記事では、建築基準法における非常用発電機の設置義務、設置基準、選定ポイント、維持管理までを網羅的に解説します。この記事を読むことで、必要な出力の計算方法や燃料の種類の選択、設置場所の規定、排煙設備や燃料タンクの基準など、建築基準法に適合する非常用発電機を導入するために必要な知識を網羅的に得ることができます。結果として、安全かつ適切な非常用発電機を設置し、災害時にも安心できる建物環境を構築することが可能になります。また、ヤンマー、デンヨー、三菱電機といった主要メーカーの特徴や、病院、商業施設、マンションといった具体的な設置事例も紹介することで、読者の理解を深めます。さらに、定期点検の重要性や法定点検の内容、故障時の対応についても解説することで、非常用発電機の長期的な運用にも役立つ情報を提供します。
非常用発電機と建築基準法の関係

非常用発電機は、災害や停電時に電力を供給し、人命や財産を守る上で重要な役割を果たします。そのため、建築基準法では、一定の建築物に対して非常用発電機の設置が義務付けられています。この章では、建築基準法における非常用発電機の設置義務や免除されるケースについて詳しく解説します。
建築基準法における非常用発電機の設置義務
建築基準法では、火災や地震などの災害時に人命の安全を確保するために、特定の用途を持つ建築物には非常用発電機の設置が義務付けられています。具体的には、以下の建築物が該当します。
- 劇場、映画館、公会堂、集会場などの不特定多数の人が利用する施設
- 病院、老人ホーム、障害者施設などの防災上特に重要な施設
- 百貨店、マーケットなどの大規模な商業施設
- 高層ビル、地下街などの避難が困難な施設
- 一定規模以上の共同住宅
これらの建築物では、停電時に照明、消火設備、排煙設備、避難誘導灯などの安全確保に必要な設備に電力を供給できる非常用発電機を設置しなければなりません。設置義務の対象となる建築物の規模や用途、必要な設備は建築基準法や消防法で細かく規定されているため、専門家による確認が必要です。
非常用発電機の設置が免除されるケース
建築基準法では、一定の条件を満たす場合、非常用発電機の設置が免除されるケースがあります。主な免除要件は以下の通りです。
免除要件 | 内容 |
---|---|
自家発電設備の設置 | 非常用電源として自家発電設備が設置されている場合、非常用発電機の設置は免除されます。ただし、自家発電設備も建築基準法の規定に適合している必要があります。 |
電力供給の信頼性が高い地域 | 過去の実績から停電の可能性が極めて低いと認められる地域では、非常用発電機の設置が免除される場合があります。ただし、この判断は管轄の行政機関によって行われるため、事前に確認が必要です。 |
小規模な建築物 | 一定規模以下の小規模な建築物では、非常用発電機の設置が免除される場合があります。具体的な規模は建築物の用途や地域によって異なるため、建築基準法施行令などを確認する必要があります。 |
代替設備の設置 | 非常用発電機に代わる適切な代替設備(例:蓄電池設備)が設置されている場合、非常用発電機の設置が免除される場合があります。代替設備の性能や設置基準は建築基準法で定められています。 |
非常用発電機の設置が免除される場合でも、停電時の安全対策を十分に講じる必要があります。 例えば、停電時に備えて懐中電灯や誘導灯などを常備したり、避難経路を明確に示したりするなどの対策が重要です。また、免除要件に該当するかどうかは、専門家や管轄の行政機関に確認することをお勧めします。
非常用発電機の設置基準

非常用発電機の設置基準は、建築基準法、消防法、電気事業法など複数の法令によって定められています。中でも建築基準法は、建物の安全確保という観点から、非常用発電機の設置場所や設備に関して詳細な規定を設けています。ここでは、建築基準法に基づいた非常用発電機の設置基準について解説します。
設置場所に関する規定
非常用発電機の設置場所は、火災や地震などの災害時に安全に稼働できるよう、適切に選定する必要があります。屋内設置と屋外設置それぞれに基準が定められています。
屋内設置の場合の基準
屋内設置の場合、専用の機械室を設けることが原則です。この機械室は、耐火構造でなければならず、換気設備の設置も義務付けられています。また、発電機の排気ガスによる影響を最小限に抑えるため、換気口の位置にも規定があります。さらに、点検や整備のための十分なスペースを確保することも重要です。
項目 | 基準 |
---|---|
設置場所 | 専用の機械室(耐火構造) |
換気設備 | 設置必須(換気口の位置にも規定あり) |
スペース | 点検・整備のための十分なスペースが必要 |
屋外設置の場合の基準
屋外設置の場合、風雨や直射日光から発電機を守るための適切な措置が必要です。例えば、防音壁や遮音カバーの設置などが挙げられます。また、周囲への排気ガスや騒音の影響にも配慮しなければなりません。さらに、盗難防止対策も重要です。
項目 | 基準 |
---|---|
設置場所 | 風雨や直射日光を避ける |
防護措置 | 防音壁、遮音カバーなど |
周辺環境への配慮 | 排気ガス、騒音への対策 |
盗難防止 | セキュリティ対策の実施 |
排煙設備に関する規定
非常用発電機は、稼働時に排気ガスを発生させます。この排気ガスを適切に処理するために、排煙設備の設置が義務付けられています。排煙設備は、発電機の出力や設置場所に応じて適切なものを選定する必要があります。例えば、排煙ダクトや排煙機などが挙げられます。また、排煙口の位置にも規定があり、周囲の建物や環境への影響を最小限に抑える必要があります。
燃料タンクに関する規定
非常用発電機は、燃料を供給するための燃料タンクが必要です。燃料タンクの容量や設置場所についても、建築基準法で規定されています。
燃料タンクの容量基準
燃料タンクの容量は、非常用発電機の出力や使用時間に応じて適切に設定する必要があります。建築基準法では、一定時間以上の連続運転を可能とする容量を確保することが求められています。具体的には、消防法施行規則により、72時間以上の連続運転に必要とされる燃料を貯蔵することが求められるケースもあります。
燃料タンクの設置基準
燃料タンクの設置場所についても、火災や地震などの災害時に安全性を確保できるよう、規定があります。例えば、タンクの材質や設置方法、防油堤の設置などが挙げられます。地下に設置する場合は、より厳格な基準が適用されます。また、給油口の位置にも規定があり、安全かつ容易に給油できるよう配慮する必要があります。
項目 | 基準 |
---|---|
材質 | 防錆性、耐腐食性に優れた材質 |
設置方法 | 基礎工事の確実な実施 |
防油堤 | 設置必須(漏油時の拡散防止) |
地下設置 | より厳格な基準適用 |
給油口 | 安全かつ容易な給油のための適切な位置 |
以上の内容は、建築基準法における非常用発電機の設置基準の概要です。具体的な設置基準は、建物の用途や規模、地域によって異なる場合があります。詳細な設置基準については、専門家や各地域の建築基準法担当窓口に確認することをお勧めします。
非常用発電機の選定ポイント

非常用発電機の選定は、建物の規模や用途、必要な電力、設置環境など様々な要素を考慮する必要があります。最適な発電機を選ぶために、以下のポイントを踏まえましょう。
必要な出力の計算方法
非常用発電機の出力は、バックアップしたい機器の消費電力に基づいて決定します。照明、空調、エレベーター、医療機器など、非常時に稼働させる必要がある機器の消費電力を合計し、余裕を持った出力の機種を選びましょう。単純に合計するだけでなく、起動電流も考慮することが重要です。起動電流は、機器の稼働開始時に瞬間的に流れる大きな電流で、定格電流の数倍になることもあります。起動電流を考慮せずに発電機を選定すると、容量不足で機器が正常に起動しない可能性があります。
計算方法は以下の通りです。
- 非常時に使用する全ての機器の定格消費電力(W)と起動電流(A)をリストアップする。
- 起動電流が最も大きい機器を特定する。
- その他の機器の定格消費電力を合計する。
- 特定した機器の起動電流とその他の機器の定格消費電力の合計値を元に、必要な発電機の容量(kVA)を決定する。
専門業者に相談することで、より正確な出力計算と機種選定のサポートを受けることができます。
燃料の種類の選択
非常用発電機の燃料には、主に軽油とガスがあります。それぞれのメリット・デメリットを理解し、設置環境や運用状況に合わせて最適な燃料を選びましょう。
軽油式発電機のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
燃料の入手が容易 | 燃料タンクの設置スペースが必要 |
比較的安価な燃料コスト | 排気ガスによる環境への影響 |
高い出力と安定した稼働 | 定期的な燃料の補充が必要 |
ガス式発電機のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
クリーンな排気ガス | 都市ガス供給がない地域では設置不可 |
燃料タンクが不要 | 軽油式に比べて高価な初期費用 |
長期間の燃料保管が不要 | ガス供給停止時のリスク |
メーカーの選定
非常用発電機のメーカーは数多く存在します。信頼性、アフターサービス、価格などを比較検討し、最適なメーカーを選びましょう。代表的なメーカーには、ヤンマー、デンヨー、三菱電機などがあります。
ヤンマー
ヤンマーは、ディーゼルエンジン技術に強みを持つメーカーです。耐久性と信頼性に優れた発電機を製造しており、長期間の安定稼働が期待できます。また、全国にサービス拠点を持つため、迅速なメンテナンス対応も可能です。
デンヨー
デンヨーは、溶接機や発電機などを製造するメーカーです。幅広い出力レンジの製品をラインナップしており、様々なニーズに対応できます。また、低騒音設計にも力を入れており、住宅地や病院など、静粛性が求められる場所への設置にも適しています。
三菱電機
三菱電機は大手電機メーカーであり、高品質な発電機を提供しています。高度な制御技術により、安定した電力供給を実現しています。また、環境性能にも配慮した製品開発にも取り組んでいます。
その他にも、様々なメーカーが存在します。それぞれのメーカーの特徴を理解し、自社のニーズに合ったメーカーを選択することが重要です。
建築基準法に適合する非常用発電機の設置事例

ここでは、実際に建築基準法に適合した非常用発電機がどのように設置されているのか、具体的な事例を交えて解説します。各施設の規模や用途によって、必要な発電機の出力や設置場所、設備などが異なるため、ぜひ参考にしてください。
病院の設置事例
病院は、停電が発生すると生命に関わる事態に発展する可能性があるため、非常用発電機の設置が義務付けられています。特に、手術室や集中治療室、人工呼吸器を使用する病室などは、無停電電源装置(UPS)と連携した非常用電源システムの構築が必須です。
大規模病院の場合
大規模病院では、数千kVA以上の大出力の非常用発電機が複数台設置されるケースが一般的です。設置場所は、建物の屋上や地下、専用の機械室などが選ばれ、耐震性や防火性能に優れた構造が求められます。また、複数の発電機を並列運転させることで、1台が故障した場合でも他の発電機で電力を供給できる体制を構築することが重要です。
項目 | 内容 |
---|---|
発電機出力 | 3000kVA×2台(並列運転) |
燃料 | 軽油 |
設置場所 | 専用機械室(地下1階) |
その他 | UPSと連動、自動起動システム搭載 |
中小規模病院の場合
中小規模病院では、数百kVA程度の非常用発電機が設置されることが多いです。設置場所は、建物の屋上や屋外が一般的で、省スペース化のために防音型の発電機が採用されるケースもあります。また、限られた予算の中で効率的なシステムを構築するために、専門業者との綿密な打ち合わせが不可欠です。
項目 | 内容 |
---|---|
発電機出力 | 500kVA×1台 |
燃料 | 軽油 |
設置場所 | 屋外(防音型) |
その他 | 自動起動システム搭載 |
商業施設の設置事例
商業施設では、停電が発生すると営業活動に支障をきたすだけでなく、顧客の安全確保にも影響するため、非常用発電機の設置が重要です。特に、百貨店やショッピングモールなどの大規模施設では、非常用発電機によるバックアップ体制が不可欠です。
ショッピングモールの設置事例
大規模なショッピングモールでは、数千kVA以上の非常用発電機が複数台設置されるケースが一般的です。設置場所は、屋上や地下、専用の機械室などが選ばれ、排煙設備や燃料タンクの設置基準にも配慮する必要があります。また、非常時には、照明や空調、セキュリティシステムなど、特定の設備に優先的に電力を供給するシステムが構築されている場合もあります。
小規模店舗の設置事例
小規模店舗では、数十kVA程度の比較的小出力の非常用発電機が設置されることが多いです。設置場所は、店舗の裏側や屋上が一般的で、コストを抑えるために中古の発電機が利用されるケースもあります。ただし、中古品を使用する場合は、必ず専門業者による点検と整備を行い、建築基準法に適合していることを確認する必要があります。
マンションの設置事例
マンションでは、共用部分の照明やエレベーター、給水ポンプなどを稼働させるために非常用発電機の設置が義務付けられています。特に、高層マンションでは、避難時の安全確保のために非常用発電機の役割が非常に重要です。
高層マンションの設置事例
高層マンションでは、数百kVA程度の非常用発電機が設置されることが多いです。設置場所は、地下や1階部分の共用スペースが一般的で、居住者の生活空間への影響を最小限に抑えるための防音対策が施されています。また、火災発生時には、消防隊員が使用するエレベーターや排煙設備にも電力を供給できるシステムが構築されている場合もあります。
低層マンションの設置事例
低層マンションでは、数十kVA程度の比較的小出力の非常用発電機が設置されることが多いです。設置場所は、建物の外部や共用スペースが一般的で、コストを抑えるためにガス式の発電機が採用されるケースもあります。また、定期的な点検とメンテナンスを行い、常に正常に稼働できる状態を維持することが重要です。
非常用発電機の維持管理

非常用発電機は、いざという時に確実に稼働するよう、日頃からの適切な維持管理が不可欠です。定期的な点検やメンテナンスを怠ると、機器の劣化や故障につながり、非常時に本来の機能を発揮できない可能性があります。また、建築基準法にも関連規定があり、適切な維持管理を行うことは法的義務でもあります。
定期点検の重要性
非常用発電機は、使用頻度が低い機器であるため、いざという時に正常に動作するかどうかを確認するためにも定期点検が重要です。定期点検を行うことで、軽微な不具合を早期に発見し、大きな故障やトラブルを未然に防ぐことができます。また、定期的なメンテナンスは機器の寿命を延ばし、長期間にわたって安定した性能を維持することにつながります。点検を怠ると、建築基準法違反となる可能性もあるため、注意が必要です。
法定点検の内容
非常用発電機には、建築基準法に基づき、定期的な点検が義務付けられています。点検内容は、発電機の規模や種類によって異なりますが、一般的には以下の項目が含まれます。
点検項目 | 内容 |
---|---|
外観点検 | 発電機の外観に損傷や異常がないかを確認します。 |
作動試験 | 実際に発電機を起動し、正常に動作するかを確認します。負荷試験を行い、定格出力が出ているかも確認します。 |
エンジン点検 | エンジンのオイルや冷却水の量、ベルトの張力などを確認します。 |
電気系統点検 | 配線や端子に異常がないか、絶縁抵抗測定を行います。 |
燃料系統点検 | 燃料タンクや配管に漏れがないか、燃料の劣化具合を確認します。 |
バッテリー点検 | バッテリーの電圧や比重を測定し、劣化具合を確認します。 |
これらの点検は、専門の業者に依頼することが推奨されています。資格を持った技術者が適切な点検を行い、必要に応じて整備や修理を行うことで、非常用発電機の信頼性を確保することができます。
故障時の対応
非常用発電機が故障した場合、速やかに修理対応を行う必要があります。特に、災害時など電力が供給されない状況で故障が発生した場合、大きな影響を受ける可能性があります。日頃から、信頼できるメンテナンス業者と契約を結び、緊急時の連絡体制を確立しておくことが重要です。
故障時の対応手順
- 故障の内容を確認する:どのような症状が出ているのか、いつから発生しているのかなどを確認します。
- メンテナンス業者に連絡する:契約しているメンテナンス業者に連絡し、状況を説明します。
- 応急処置を行う:状況によっては、一時的な応急処置が必要となる場合があります。メンテナンス業者の指示に従って対応します。
- 修理を行う:メンテナンス業者による修理を行います。修理完了後、動作確認を行い、正常に機能することを確認します。
- 記録を残す:故障の内容、対応内容、修理費用などを記録に残しておきます。今後のメンテナンスに役立ちます。
また、故障時の対応をスムーズに行うために、発電機の取扱説明書をよく読み、基本的な操作方法やトラブルシューティングの方法を理解しておくことも重要です。
適切な維持管理を行うことで、非常用発電機を常に最適な状態で稼働させ、非常時に備えることができます。建築基準法の遵守はもちろんのこと、人命や財産を守るためにも、日頃から適切な維持管理を心掛けましょう。
まとめ

建築基準法に適合する非常用発電機の設置は、建物の安全確保に不可欠です。本記事では、非常用発電機の設置義務から、設置基準、選定ポイント、維持管理までを網羅的に解説しました。設置義務の有無は建物の用途や規模によって異なり、免除されるケースもあるため、事前に確認が必要です。設置基準においては、設置場所、排煙設備、燃料タンクなど、様々な規定を遵守しなければなりません。屋内設置と屋外設置では基準が異なるため注意が必要です。
非常用発電機を選ぶ際には、必要な出力を正確に計算し、燃料の種類やメーカーを適切に選定することが重要です。軽油とガスではそれぞれメリット・デメリットがあり、建物の状況に合わせて最適な燃料を選びましょう。ヤンマー、デンヨー、三菱電機など、信頼性の高いメーカーを選ぶことも重要です。また、設置後の維持管理も重要です。定期点検や法定点検を適切に行い、故障時には迅速な対応が必要です。これらのポイントを踏まえ、建築基準法に適合した非常用発電機を設置し、安全な建物を維持しましょう。