【プロが解説】売上を伸ばす飲食店照明の選び方|集客できる空間作りのコツ

飲食店の開業やリニューアルにおいて、照明計画を「ただ明るくするためのもの」と考えて後回しにしていませんか?実は、照明はお店の雰囲気や料理の魅力を決定づけ、ひいては集客や売上を大きく左右する極めて重要な要素です。結論から言うと、戦略的な照明計画は、お客様の居心地の良さと料理への満足度を高め、「また来たい」と思わせるリピートのきっかけを作ります。この記事では、照明の基本的な知識から、カフェや居酒屋といった業態別の最適な選び方、さらには売上アップに直結するプロのテクニックまで、空間作りの専門家が徹底解説します。照明選びで失敗しないための注意点も網羅しており、この記事を読むだけで、あなたの店の価値を最大限に高める照明プランの作り方がすべて分かります。

飲食店照明が集客と売上を左右する理由

飲食店の照明は、単に店内を明るくするための設備ではありません。実は、お客様の心理や行動に深く影響を与え、お店の集客力や売上を大きく左右する「戦略的ツール」なのです。多くの店舗が見落としがちな照明計画にこだわることで、競合との差別化を図り、繁盛店への道を切り拓くことができます。ここでは、なぜ飲食店照明がそれほどまでに重要なのか、3つの具体的な理由を解説します。

料理を美味しく見せるシズル感の演出

お客様が料理を「美味しい」と感じる要素は、味や香りだけではありません。「見た目」が与える影響は非常に大きく、照明はその印象を決定づける重要な役割を担っています。適切な照明は、料理にツヤや立体感を与え、食欲をそそる「シズル感」を最大限に引き出します。

例えば、ステーキのジューシーな肉汁、サラダの瑞々しい色彩、パンの香ばしい焼き色。これらはすべて、照明の色や光の当て方次第で、より一層魅力的に見せることができます。逆に、不適切な照明の下では、せっかくの料理も色褪せて見え、お客様の食欲を減退させてしまう可能性すらあるのです。料理の価値を高め、注文を促進するためにも、シズル感を演出する照明計画は不可欠です。

ポイント適切な照明の例不適切な照明の例
光の色暖色系(電球色)の光で、肉料理や揚げ物を温かく美味しそうに見せる。青白い光(昼光色)で、料理が冷たく見え、新鮮さが損なわれる。
色の再現性演色性の高い照明で、野菜や魚介類など食材本来の鮮やかな色を忠実に再現する。演色性が低く、食材がくすんで見えたり、不自然な色合いになったりする。
光の当て方斜め上からスポットライトを当て、料理に陰影と立体感を生み出す。真上からの強い光や、均一すぎる光で、料理が平面的に見える。

居心地の良い雰囲気作りと顧客満足度

お客様が飲食店に求めるのは、美味しい料理だけではありません。食事をする空間の「居心地の良さ」も、顧客満足度を大きく左右する要素です。そして、その空間の雰囲気を最も効果的にコントロールできるのが照明です。

例えば、明るすぎる照明はファストフード店のように慌ただしい印象を与え、お客様を落ち着かせません。逆に関節照明などを効果的に使った落ち着いた明るさの空間は、リラックス効果を高め、会話を弾ませます。居心地の良い空間は、お客様の滞在時間を自然と延ばし、追加のドリンクやデザートの注文を促すことで客単価アップに繋がります。さらに、「また来たい」と思わせる強い動機付けとなり、リピート客の獲得にも大きく貢献するのです。

SNSで拡散される「映える」空間の創出

現代の飲食店経営において、InstagramやTikTokなどのSNSによる集客効果は無視できません。お客様が思わず写真に撮って投稿したくなるような「映える」空間は、無料で店舗を宣伝してくれる強力な広告塔となります。この「映え」を創り出す上で、照明は決定的な役割を果たします。

料理や人物が美しく撮れる照明環境は、お客様によるUGC(ユーザー生成コンテンツ)を促進します。例えば、テーブルの上を効果的に照らすスポットライトは料理を主役にし、壁を照らす間接照明は空間に奥行きと上質な雰囲気を与えます。デザイン性の高いペンダントライト自体が、絶好の撮影スポットになることもあります。照明を工夫し、お客様が「自慢したい」と思える空間を提供することが、SNSでの拡散を生み出し、新たな顧客を呼び込む好循環に繋がるのです。

まずは押さえたい飲食店照明の基本知識

飲食店の照明計画を成功させるためには、まず基本的な知識を身につけることが不可欠です。照明器具にはどのような種類があり、それぞれどんな特徴を持つのか。また、カタログなどで目にする専門用語は何を意味するのか。ここでは、理想の空間作りを実現するために最低限押さえておきたい、照明の基礎を分かりやすく解説します。

照明器具の主な種類と特徴

飲食店でよく使用される代表的な照明器具を4つご紹介します。それぞれのメリット・デメリットを理解し、お店のコンセプトや目的に合わせて適材適所に配置することが、効果的な照明計画の第一歩です。

ペンダントライト

天井からコードやチェーンで吊り下げるタイプの照明器具です。デザイン性が非常に高く、空間のアクセントとして大きな役割を果たします。テーブルの真上に低めに設置すれば、そのテーブルだけの特別な空間を演出し、お客様の視線を自然と料理に集める効果があります。シェード(傘)の素材(ガラス、ホーロー、和紙、布など)や形状によって光の広がり方や印象が大きく変わるため、お店のインテリアコンセプトを象徴するアイテムとして選ぶことができます。

スポットライトとダクトレール

特定の場所をピンポイントで照らすことができるのがスポットライトです。そして、そのスポットライトを複数取り付け、自由に位置を動かせるようにしたものがダクトレール(ライティングレール)です。最大のメリットは、レイアウト変更に柔軟に対応できること。テーブル配置の変更や、季節ごとに壁に飾るアートを変えたい場合でも、照明の位置や角度を簡単に調整できます。壁面のロゴやメニューボード、おすすめ商品を照らすことで、お客様の視線を誘導し、空間にメリハリを生み出す効果的な演出が可能です。

ダウンライト

天井に埋め込んで設置する小型の照明器具です。器具自体が目立たないため、天井面をすっきりと見せ、空間を広く感じさせる効果があります。主に、通路や空間全体の明るさを確保するためのベース照明として用いられます。光が広範囲に広がる「拡散タイプ」と、光を絞って特定の場所を照らす「集光タイプ」があり、用途に応じて使い分けることが重要です。他のデザイン性の高い照明と組み合わせることで、主役の照明を引き立てる名脇役となります。

間接照明

光源が直接目に入らないように、光を壁や天井に一度反射させて、その柔らかな光で空間を照らす手法です。建築化照明とも呼ばれ、天井の折り上げ部分に光源を隠す「コーブ照明」や、壁を照らす「コーニス照明」などがあります。直接光のような眩しさがなく、落ち着いた上質な雰囲気を演出したい場合に最適です。空間に奥行きと広がりを与え、リラックス効果の高い、陰影の美しい空間を創り出します。

覚えておくべき照明の専門用語

照明器具を選ぶ際、カタログや仕様書には必ず専門用語が記載されています。ここでは、特に重要な「色温度」「演色性」「明るさ」に関する3つの指標について解説します。これらの数値を理解することが、失敗しない照明選びの鍵となります。

色温度(K)で空間の印象を操作する

色温度とは、光の色味を表す指標で、単位は「K(ケルビン)」です。数値が低いほどオレンジ色の暖かい光になり、数値が高くなるにつれて白から青みがかった涼しげな光へと変化します。飲食店では、この色温度をコントロールすることで、お店のコンセプトに合わせた雰囲気を自在に作り出すことができます。

色温度の目安光の色与える印象適した業態・場所
2700K~3000K電球色暖かみ、落ち着き、リラックス、高級感レストラン、バー、カフェ、割烹、居酒屋
3500K温白色穏やか、ナチュラル、活気ナチュラル系のカフェ、ベーカリー、物販併設店
5000K昼白色自然光に近い、清潔感、作業向き厨房、バックヤード、オフィス
6500K昼光色青白い、クール、集中清掃時など(客席には不向き)

特に、料理を美味しく見せる効果が高いのは、暖色系の電球色と言われています。お客様にリラックスして食事を楽しんでもらいたい空間には、低い色温度の照明を選ぶのがセオリーです。

演色性(Ra)で料理の魅力を引き出す

演色性とは、その照明で物体を照らしたときに、自然光(太陽光)の下で見た場合の色をどれだけ忠実に再現できるかを示す指標です。平均演色評価数「Ra(アールエー)」という数値で表され、100に近いほど演色性が高い(色が自然に見える)ことを意味します。この演色性は、料理の色鮮やかさ、シズル感を表現する上で極めて重要な要素です。Raが低い照明の下では、せっかくの新鮮な食材も色褪せて見え、お客様の食欲を減退させてしまう恐れがあります。飲食店ではRa80以上が一般的ですが、料理の魅力を最大限に引き出すためには、Ra90以上の高演色タイプの照明を選ぶことを強く推奨します。

明るさの指標(lmとlx)

照明の明るさを考える上で、「lm(ルーメン)」と「lx(ルクス)」という2つの単位を理解しておく必要があります。

  • lm(ルーメン):照明器具そのものが発する光の総量(光束)です。数値が大きいほど、その照明器具が明るいことを示します。
  • lx(ルクス):照明によって照らされる「面」の明るさ(照度)です。テーブルの上や床面がどれくらい明るいかを示します。

照明計画では、器具の性能(lm)だけでなく、実際に客席のテーブル面が適切な明るさ(lx)になるかを考慮することが大切です。同じlmの照明器具でも、天井の高さや光の広がり方によって、テーブル面のlxは大きく変わります。業態ごとの推奨照度(テーブル面)の目安は以下の通りです。

業態推奨照度(テーブル面)の目安雰囲気
バー、ラウンジ100 lx 以下ムーディーで落ち着いた大人の空間
レストラン、割烹150~300 lx高級感があり、食事に集中できる空間
カフェ、居酒屋200~500 lx会話が弾む、賑わいのある空間
ラーメン店、ファストフード500~750 lx活気があり、回転率を意識した明るい空間

ただし、これはあくまで一般的な目安です。お店が目指す雰囲気やコンセプトに合わせて、最適な明るさを計画することが重要になります。

【業態別】最適な飲食店照明プランの作り方

飲食店の照明計画は、提供する料理やサービス、そしてターゲット顧客層によって大きく異なります。ここでは代表的な4つの業態別に、お客様を魅了し、売上向上に繋がる最適な照明プランの作り方を具体的に解説します。自店のコンセプトと照らし合わせながら、理想の空間作りのヒントを見つけてください。

カフェや喫茶店におすすめの照明

カフェや喫茶店では、お客様がリラックスして過ごせる「居心地の良さ」が最も重要です。読書や仕事、友人との会話など、様々な目的で利用されるため、シーンに応じた柔軟な照明計画が求められます。

コンセプト:温かみと落ち着きのある「サードプレイス」の演出

自宅でも職場でもない、自分だけのお気に入りの場所(サードプレイス)と感じてもらえるような、温かく包み込むような光の演出が鍵となります。自然光を最大限に活かしつつ、人工照明でその魅力を補完・増幅させることを目指しましょう。

全体の明るさは抑えめにし、各テーブルにペンダントライトやテーブルランプを配置して手元の明るさを確保する「多灯分散」が基本です。これにより、空間に陰影が生まれ、落ち着きと奥行きが生まれます。また、壁面にブラケットライトや間接照明を取り入れることで、空間の広がりを演出し、よりリラックスできる雰囲気を作り出せます。

照明選びのポイント

  • デザイン性の高いペンダントライト:空間のアイコンとなり、SNS映えにも貢献します。テーブルの真上に、食事や読書の邪魔にならない高さで設置するのがポイントです。
  • 自然光との調和:日中は自然光を主役にし、照明は補助的に使用します。窓際の席では照明を弱めるなど、時間帯や天候に合わせて調光できるシステムが理想的です。
  • 間接照明の活用:カウンター下や棚の奥にライン照明を仕込むことで、柔らかな光が広がり、上質で落ち着いた雰囲気を醸し出します。
項目推奨値解説
色温度2700K~3000K(電球色)夕日のようなオレンジ色の光。リラックス効果が高く、コーヒーやパンの色を温かく美味しそうに見せます。
演色性Ra85以上スイーツやラテアートの色を自然に再現するために重要です。特に物販も行う場合はRa90以上が望ましいです。
明るさ(客席)100lx~300lx全体は暗め(100lx程度)に、テーブル上は読書もできる明るさ(300lx程度)を確保し、メリハリをつけます。

居酒屋やバーにおすすめの照明

居酒屋やバーの照明は、非日常感や高揚感を演出し、お酒と会話を心ゆくまで楽しんでもらうための重要な要素です。大衆的な賑わいを演出するのか、隠れ家的な落ち着いた雰囲気を求めるのか、店のコンセプトに合わせて光をデザインします。

コンセプト:親密さと期待感を高める「光と影」のコントラスト

全体を敢えて暗くすることで、テーブル上の料理やドリンク、そして人々の表情に視線が集中するような、ドラマチックな空間を目指します。暗がりの中に浮かび上がる光は、隣の席との心理的な境界線となり、プライベートな雰囲気を高めます。

カウンターにはスポットライトを当てて、バーテンダーの手さばきやボトルを美しく照らし、ライブ感を演出。テーブル席は、小型のペンダントライトやスポットライトでテーブルの中心だけを照らすと、料理への期待感が高まり、会話も弾みます。

照明選びのポイント

  • スポットライトの多用:ダクトレールとスポットライトの組み合わせは、レイアウト変更にも柔軟に対応でき、メニューや装飾をピンポイントで照らすのに最適です。
  • 足元の間接照明:通路や段差にフットライトを設置すると、安全性を確保しつつ、空間に浮遊感と奥行きが生まれます。
  • 調光機能の活用:早い時間帯はやや明るめに、深夜に近づくにつれて照度を落とすことで、時間の経過とともに店の雰囲気を深めていくことができます。
項目推奨値解説
色温度2200K~2700K(電球色)ロウソクの炎に近い、赤みがかった光。親密な雰囲気を作り、リラックス効果を高めます。ビールやカクテルの色も魅力的に見えます。
演色性Ra90以上刺身の鮮度や創作料理の彩りを正確に伝えるために、高い演色性は必須です。お客様の満足度に直結します。
明るさ(客席)50lx~150lx全体はかなり暗め(50lx程度)でOK。テーブル上のみメニューが読める明るさ(150lx程度)を確保します。

レストランや割烹におすすめの照明

レストランや割烹など、特別な食事の場を提供する店舗では、高級感と清潔感、そして料理を最高に引き立てるための照明計画が不可欠です。お客様が過ごす時間そのものを価値ある体験に変える、上質な光の空間を創り上げます。

コンセプト:料理が主役となる「舞台照明」のような空間演出

白いテーブルクロスや美しい器に盛り付けられた料理を、まるで舞台上の主役のように際立たせることが照明の最大の役割です。そのためには、テーブルの上だけに必要な光を落とし、周囲の明るさを抑えることで、お客様の意識を料理と会話に集中させます。

天井に埋め込むダウンライトや、天井から吊るすペンダントライトを各テーブルの真上に配置するのが基本形です。このとき、光源が直接目に入らないよう、グレア(眩しさ)を抑えた器具を選ぶ配慮が、お客様の快適性を大きく左右します。

照明選びのポイント

  • 高演色(High CRI)照明の採用:演色性(Ra)が95以上の照明を選ぶことで、食材本来の繊細な色合い、肉の焼き加減、ソースの艶などを忠実に再現し、料理の価値を最大限に高めます。
  • 一灯一テーブルの原則:各テーブルに一つの照明を割り当てることで、プライベート感が確保され、特別な空間を演出できます。光の角度を調整できるユニバーサルダウンライトも有効です。
  • 装飾照明による品格の演出:エントランスのシャンデリアや壁面のアートを照らすピクチャーライトなど、空間の品格を高めるためのアクセント照明も効果的です。
項目推奨値解説
色温度2700K~3500K(電球色~温白色)落ち着きと高級感を両立する色温度。和食には温かみのある電球色、フレンチなど洋食にはやや白に近い温白色がマッチします。
演色性Ra95以上料理の魅力を最大限に引き出すための最重要項目。特に高級店では妥協できないポイントです。
明るさ(テーブル上)200lx~500lx周囲は暗く(100lx以下)し、テーブル上は料理が細部まで美しく見える明るさを確保します。

ラーメン店や焼肉店におすすめの照明

ラーメン店や焼肉店など、比較的短い滞在時間で食事を楽しむ業態では、「活気」と「清潔感」、そして何よりも「料理のシズル感」を伝える照明が求められます。お客様の食欲を刺激し、店の回転率を向上させる効果も期待できます。

コンセプト:活気と清潔感を伝え、シズル感を最大化する「明るい光」

店内全体を明るく均一な光で満たすことで、誰でも入りやすいオープンな雰囲気と、衛生管理の行き届いた清潔な印象を与えます。特に、ラーメンの湯気や肉が焼ける様子といった「シズル感」を際立たせる光の質が重要になります。

照明計画の基本は、天井にダウンライトを均等に配置し、店内全体に十分な明るさを確保することです。その上で、カウンターや各テーブルの真上には、料理をピンポイントで照らすためのスポットライトやペンダントライトを追加します。これにより、料理がより一層美味しそうに見え、お客様の満足度を高めます。

照明選びのポイント

  • 高い色温度と照度:やや白っぽい光(温白色~昼白色)で店内を明るく照らすことで、活気ある雰囲気が生まれ、客席の回転率アップにも繋がると言われています。
  • 油煙に強い器具選び:焼肉店など油煙が多い環境では、照明器具が汚れやすくなります。シェードが洗いやすい素材であるか、防水・防油性能があるかなど、メンテナンス性を重視して選びましょう。
  • 演色性へのこだわり:チャーシューの照りやネギの青み、肉の赤身など、食材の色を鮮やかに見せるために、演色性(Ra85以上)の高い照明を選ぶことが、シズル感の演出に直結します。
項目推奨値解説
色温度3500K~5000K(温白色~昼白色)活気と清潔感を演出する、やや白みがかった光。爽やかな印象を与え、お客様の滞在時間をコントロールする効果も期待できます。
演色性Ra85以上料理の鮮やかな色を再現し、食欲をそそる「シズル感」を出すために重要です。
明るさ(店内全体)500lx~750lx店内全体を明るく保ち、清潔で活気ある空間を印象付けます。手元のメニューや料理がはっきりと見える明るさです。

売上アップに繋がる飲食店照明のプロ技テクニック

飲食店照明の基本を押さえた上で、さらにお客様を魅了し、売上向上に繋げるためのプロのテクニックをご紹介します。これらの手法は、空間に付加価値を与え、他店との差別化を図る強力な武器となります。少しの工夫で顧客体験は劇的に向上するため、ぜひ取り入れてみてください。

多灯分散で空間に奥行きとリズムを生む

空間全体を一つの照明で均一に照らす「一室一灯」方式は、オフィスや家庭では一般的ですが、飲食店の空間演出には不向きな場合があります。プロが推奨するのは、複数の小さな光源を効果的に配置する「多灯分散」という考え方です。これにより、空間に光と影のコントラストが生まれ、様々なメリットが生まれます。

多灯分散の主なメリットは以下の通りです。

  • 空間の立体感と奥行き:明るい場所と暗い場所(陰影)が生まれることで、空間が単調にならず、視覚的な奥行きと広がりを感じさせます。
  • 視線誘導効果:人は自然と明るい場所に目が向くため、壁に飾ったアートやこだわりのインテリア、おすすめメニューなどをスポットライトで照らすことで、お客様の視線を意図的に誘導し、お店の魅力を効果的に伝えられます。
  • 雰囲気の醸成:空間に光のリズムが生まれ、洗練されたおしゃれな雰囲気を演出できます。お客様はよりリラックスし、心地よい時間を過ごすことができます。

具体的には、ダクトレールに複数のスポットライトを取り付けて壁やテーブルを照らしたり、高さの異なるペンダントライトをリズミカルに配置したり、壁面のブラケットライトや足元のフットライトを組み合わせることで、多灯分散を実現できます。

比較項目一室一灯(例:シーリングライト1台)多灯分散(例:スポットライト+ペンダントライト)
空間の印象平面的、単調、機能的立体的、奥行きがある、おしゃれ
雰囲気作業的で落ち着きにくいリラックスできる、ムードがある
演出の自由度低い(ON/OFFのみ)高い(照らす場所や明るさを個別に調整可能)

調光機能で時間帯に合わせた雰囲気作り

お客様が飲食店に求める雰囲気は、時間帯によって大きく異なります。ランチタイムには活気と清潔感を、ディナータイムには落ち着きと特別感を求める方が多いでしょう。この時間帯によるニーズの変化に柔軟に対応できるのが「調光機能(ディマー)」です。

調光機能を使えば、スイッチやリモコン一つで照明の明るさを自在にコントロールできます。これにより、一つの空間で全く異なる表情を演出することが可能になります。

例えば、以下のようなシーン別の演出が考えられます。

時間帯明るさの目安演出したい雰囲気期待できる効果
ランチタイム
(11:00-14:00)
80%〜100%明るく、爽やか、活気がある料理の彩りを際立たせ、回転率の向上に繋げる
カフェタイム
(14:00-17:00)
50%〜70%穏やか、落ち着き、リラックス読書や会話がしやすい空間で、顧客満足度を高める
ディナータイム
(17:00以降)
20%〜40%ムーディー、ロマンチック、高級感客単価の高いアルコール類の注文を促し、滞在時間を延ばす

また、晴れの日は少し明るさを抑え、曇りや雨の日は少し明るくするなど、天候に合わせて調整することで、常に最適な店内環境を保つことができます。調光機能は、顧客満足度の向上だけでなく、不要な時間帯の消費電力を抑える省エネ効果も期待できる、非常に費用対効果の高いテクニックです。

テーブルの上だけを照らし特別感を演出する

高級レストランやバーなどでよく用いられるのが、空間全体の明るさ(アンビエント照明)は極力抑え、テーブルの上だけをスポット的に照らす手法です。これは「タスク・アンビエント照明」という考え方に基づいたもので、お客様に特別な体験を提供します。

この手法の最大のメリットは、テーブルの上にある料理やドリンク、そしてお客様自身を主役にできることです。周囲がほのかに暗いことで、テーブルの上が舞台のように浮かび上がり、料理の色彩や艶が際立って見えます。これにより、シズル感が最大限に引き出され、食事への期待感が高まります。

さらに、テーブル周りだけが明るいことで、他のお客様との間に心理的な境界が生まれ、まるで個室にいるかのようなプライベート感を演出できます。周囲の喧騒が気になりにくくなり、目の前の食事や大切な人との会話に集中できるため、顧客満足度は飛躍的に向上します。

この演出には、以下のような照明器具が適しています。

  • ペンダントライト:テーブルの真上から低めの位置に吊るすことで、親密な雰囲気を作り出します。シェード(傘)付きのデザインを選び、光源が直接目に入らないように配慮することが重要です。
  • スポットライト:天井のダクトレールから、ビーム角(光の広がる角度)が狭いタイプのスポットライトでテーブルの中心を狙い撃ちします。
  • テーブルランプやキャンドル:補助的にテーブル上に小さな光源を置くことで、より温かみのあるロマンチックな雰囲気を加えることができます。

このテクニックを導入する際は、お客様が席を立つ際に頭をぶつけない高さの確保や、光源が直接目に入って不快感を与える「グレア」対策を徹底することが、成功の鍵となります。

飲食店照明選びで失敗しないための注意点

飲食店の照明計画は、お店のコンセプトを表現するデザイン性だけでなく、日々の運営に関わる現実的な側面も考慮することが成功の鍵です。初期費用だけでなく、長期的な視点でランニングコストやメンテナンスの手間まで見据えることで、後悔のない照明選びが可能になります。ここでは、失敗を避けるために必ず押さえておきたい3つの重要な注意点を詳しく解説します。

LED照明のメリットと導入時のポイント

現在、飲食店の照明選びにおいてLEDは主流となっています。従来の白熱電球や蛍光灯と比較して多くのメリットがありますが、導入前に知っておくべきポイントも存在します。メリットを最大限に活かすためにも、特性を正しく理解しましょう。

LED照明が飲食店にもたらす主なメリット

LED照明を導入することで、店舗運営において以下のような具体的なメリットが期待できます。

メリット具体的な内容
省エネ・低ランニングコスト消費電力が白熱電球の約1/5~1/10と非常に少なく、月々の電気代を大幅に削減できます。店舗の照明数が多いほど、その効果は大きくなります。
長寿命約40,000時間という長寿命を誇り、一度設置すれば約10年間は交換が不要なケースも珍しくありません。高所や交換しにくい場所の照明に最適で、電球交換の手間と人件費を削減できます。
多彩な光の表現調光(明るさ調整)や調色(光の色味調整)が可能な製品が豊富です。ランチタイムは明るく爽やかに、ディナータイムは落ち着いた雰囲気になど、時間帯に合わせた空間演出が容易になります。
低発熱・紫外線カット発熱量が少ないため、空調効率の低下を防ぎ、夏場の室温上昇を抑えます。また、紫外線や赤外線の放出がほとんどないため、食材やお酒の劣化を防ぎ、壁紙やアート作品の色褪せも抑制します。
虫が寄りにくい虫が好む紫外線をほとんど放出しないため、特にテラス席やエントランス周りの照明において、虫が寄り付きにくいという衛生的なメリットがあります。

LED照明導入時に確認すべきこと

多くのメリットがあるLED照明ですが、導入を決める前にはいくつか確認すべき点があります。まず、初期費用です。製品価格は下がりつつありますが、高性能なものやデザイン性の高いものは、従来の照明器具よりも高価になる場合があります。ただし、電気代の削減や交換費用の削減によって、数年で初期投資を回収できるケースがほとんどです。導入前に、長期的なコストシミュレーションを行うことをお勧めします。また、既存の照明器具からLEDに交換する場合は、口金(ソケットの形状)や器具との互換性を必ず確認しましょう。場合によっては電気工事が必要になるため、専門の業者に相談するのが確実です。

メンテナンス性とランニングコストを考慮する

照明器具は一度設置したら終わりではありません。日々の清掃や定期的な電球交換など、運営開始後のメンテナンス性も設計段階で考慮しておくべき重要な要素です。見落としがちなポイントをしっかり押さえ、将来的な負担を軽減しましょう。

清掃のしやすさと電球交換の手間

特に焼肉店や中華料理店など、油煙が発生しやすい業態では、照明器具に汚れが付着しやすくなります。シェードやカバーが複雑な形状をしていると、清掃に多大な時間と手間がかかってしまいます。デザイン性だけでなく、拭き掃除がしやすいシンプルな形状や素材を選ぶことも大切です。また、吹き抜けのような高天井に設置された照明は、電球交換の際に専門業者への依頼や大掛かりな足場が必要になる可能性があります。設計段階で「どうやって交換するか」までシミュレーションし、脚立で安全に作業できる高さに設置する、あるいは昇降機能付きの器具を選ぶなどの対策を検討しましょう。

照明にかかるトータルコストを把握する

店舗運営におけるコストは、初期費用(イニシャルコスト)と運営費用(ランニングコスト)の両面から考える必要があります。照明に関わるランニングコストの大部分は、電気代と電球の交換費用です。以下の表で、光源ごとの大まかな特徴を比較してみましょう。

光源の種類初期費用消費電力(電気代)寿命特徴
LED電球やや高い低い非常に長い(約40,000時間)トータルコストが最も安い。調光・調色など機能も豊富。
蛍光灯普通普通普通(約12,000時間)空間全体を均一に明るくするのに適しているが、演色性はLEDに劣る場合がある。
白熱電球安い高い短い(約1,000時間)温かみのある光が魅力だが、電気代と交換頻度が高く、現在は生産終了が進んでいる。

この表からも分かるように、初期費用が多少高くても、長期的に見ればLED照明が最も経済的です。賢い照明選びは、将来の店舗経営を楽にする投資と言えるでしょう。

厨房やバックヤードの照明計画も忘れずに

お客様の目に触れる客席の照明に意識が向きがちですが、従業員が働く厨房やバックヤードの照明計画も、店舗運営の効率と安全性に直結する非常に重要な要素です。快適な労働環境は、料理の質やサービスの向上にも繋がります。

厨房照明で重視すべき機能性と安全性

厨房は、料理の品質を左右し、安全性が第一に求められる場所です。そのため、厨房の照明には客席とは異なる専門的な性能が求められます。

第一に、手元をしっかり照らす十分な明るさ(照度)を確保することです。特に包丁を使う調理台や、火加減を確認するコンロ周りは、影ができないように複数の照明を配置するのが理想的です。第二に、食材の鮮度や焼き加減を正確に判断するために、演色性(Ra)の高い照明を選びましょう。Ra85以上の高演色タイプが推奨されます。さらに、厨房は水蒸気や油煙が多いため、防水・防塵・防油性能を備えた厨房専用の照明器具を選ぶことが不可欠です。これにより、漏電などの事故を防ぎ、器具の寿命を延ばすことができます。

従業員の作業効率と満足度を高めるバックヤード照明

スタッフルームや倉庫、事務所といったバックヤードの照明も軽視できません。暗く陰気な空間は、従業員のモチベーション低下に繋がります。休憩スペースにはリラックスできる温かみのある光を、事務作業を行う場所には集中力を高める昼白色の光を選ぶなど、用途に応じた照明計画が大切です。また、在庫管理を行う倉庫や通路では、商品や足元がはっきり見える明るさを確保することで、作業効率の向上と転倒などの事故防止に繋がります。従業員が安全で快適に働ける環境を整えることも、繁盛店作りの重要な要素なのです。

まとめ

本記事では、飲食店の売上を伸ばすための照明選びについて、基本的な知識から業態別のプラン、プロのテクニックまで詳しく解説しました。飲食店における照明は、単に空間を明るくする設備ではなく、料理の魅力を最大限に引き出し、お客様が快適に過ごせる雰囲気を作り出すことで、顧客満足度とリピート率を向上させる極めて重要な要素です。

成功の鍵は、「色温度」で空間の印象をコントロールし、「高い演色性(Ra)」で料理のシズル感を演出し、「多灯分散」や「調光」といったテクニックを駆使して、お店のコンセプトやターゲット顧客に合わせた空間を創造することにあります。カフェ、居酒屋、レストランといった業態ごとの特性を理解し、最適な照明プランを立てることが、他店との差別化に繋がります。

これから開業される方や、店舗のリニューアルを検討されている方は、この記事でご紹介したポイントを参考に、デザイン性だけでなく、LED照明の導入によるランニングコストやメンテナンス性も考慮した長期的な視点で照明計画を立ててみてください。適切な照明計画は、お客様を惹きつけ、売上を伸ばすための強力な武器となるでしょう。