知らないと損!工場の電気使用量見える化がもたらす生産性向上と利益改善の全貌

電気料金の高騰や脱炭素化への対応に迫られる今、工場の電気使用量見える化は待ったなしの経営課題です。本記事では、見える化が単なるコスト削減だけでなく、設備の異常検知による生産性向上や企業価値向上にまで繋がる理由を解説。具体的な導入方法3選から費用、活用できる補助金、国内工場の成功事例までを網羅し、あなたの工場の利益改善に向けた最適な一手が見つかります。

なぜ今多くの工場で電気使用量の見える化が急務なのか

「ウチの工場は昔からこのやり方でやってきた」「節電はこまめな消灯くらいしかやることがない」。もし、そうお考えであれば、その認識は早急に改める必要があります。近年、工場の経営環境は激変しており、エネルギーコスト、特に電気使用量の管理は、もはや単なる経費削減活動ではなく、企業の存続そのものに関わる重要な経営課題となっているからです。

本章では、なぜ今、多くの工場で電気使用量の「見える化」が、待ったなしの急務となっているのか、その背景にある2つの大きな要因について詳しく解説します。

電気料金の高騰が工場経営を圧迫する現実

多くの工場経営者や現場担当者が肌で感じている通り、日本の産業用電気料金は、かつてないレベルで高騰を続けています。これは一時的な現象ではなく、複数の構造的な要因が絡み合った根深い問題であり、今後もこの傾向が続くと予測されています。この現実から目を背けることは、経営リスクを放置することに他なりません。

電気料金の内訳を見ると、高騰の主な原因が明確になります。

構成要素概要高騰の主な要因
基本料金過去1年間の最大需要電力(デマンド値)で決定される固定料金。電力会社の料金改定。一度上がると1年間下がらない。
電力量料金電気使用量に応じて変動する料金。燃料費調整額の上昇(国際的な燃料価格の高騰、円安)が直接的に影響。
再生可能エネルギー発電促進賦課金再生可能エネルギーの買取費用を、電気使用量に応じて全ての利用者が負担するもの。再生可能エネルギー導入拡大に伴い、賦課金単価が一貫して上昇傾向にある。

特に、製造業の工場では、生産設備を24時間稼働させることも珍しくなく、電気使用量が膨大になるため、これらの料金高騰の影響を直接的に受けます。かつては管理可能な変動費と捉えられていた電気代は、今や企業の利益を著しく圧迫する、コントロール困難なコストへと変貌を遂げたのです。

この状況下で、従来の「こまめな消灯」や「空調の温度設定」といった場当たり的な節電対策だけでは、到底太刀打ちできません。どの設備が、いつ、どれだけの電力を消費しているのかを正確に把握する「見える化」こそが、この未曾有のコスト高騰時代を乗り切るための、必須の第一歩となります。

省エネ法改正と脱炭素社会への対応責任

コスト面だけでなく、法律や社会からの要請という観点からも、電気使用量の見える化は避けて通れない課題となっています。特に「省エネ法」の改正と、世界的な「脱炭素」への潮流は、工場経営に大きな影響を与えています。

改正省エネ法が求めるエネルギー管理の高度化

2023年4月に施行された改正省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)は、これまでのエネルギー管理のあり方を大きく変えました。この改正の重要なポイントは、単にエネルギー使用量を減らす「省エネ」だけでなく、太陽光発電などの「非化石エネルギーへの転換」も企業の責務として明確に位置づけられた点です。

これにより、特定事業者等に指定された企業は、国への定期報告書において、非化石エネルギーへの転換に関する目標や計画の報告が義務付けられました。これらの報告義務を果たす大前提となるのが、自社のエネルギー使用状況の正確な把握、すなわち「見える化」です。どの時間帯に電力需要がピークを迎えるのか、どの生産ラインでエネルギー消費が大きいのかといった詳細なデータがなければ、具体的な削減目標や効果的な非化石エネルギー導入計画を立てることは不可能です。

サプライチェーン全体で問われる脱炭素への取り組み

近年、Appleやトヨタ自動車といったグローバル企業が、自社だけでなく、部品や原材料を供給するサプライヤーに対しても、再生可能エネルギー100%での事業運営やCO2排出量の削減を求める動きが加速しています。

これは、自社の直接排出(スコープ1, 2)だけでなく、取引先を含めたサプライチェーン全体の排出量(スコープ3)を管理し、削減することが企業の社会的責任(CSR)やESG経営の観点から強く求められているためです。つまり、自社の脱炭素への取り組みが遅れていると、大手企業との取引を失うリスクが現実のものとなっているのです。

取引先からCO2排出量のデータ提出を求められた際に、正確な数値を迅速に提示できるでしょうか。そのためには、まず電気をはじめとするエネルギー使用量をデータとして「見える化」し、管理する体制を構築することが不可欠です。電気使用量の見える化は、もはや守りのコスト削減策ではなく、ビジネスチャンスを掴み、厳しい市場で生き残るための「攻めの経営戦略」と言えるでしょう。

工場の電気使用量見える化とは?基本からわかりやすく解説

工場の「電気使用量の見える化」と聞くと、単に電気メーターの数値をグラフで確認することだと考えていませんか?しかし、本来の「見える化」が目指すのは、もっと深く、戦略的な領域にあります。それは、「いつ」「どこで」「どの設備が」「何のために」「どれくらいの電気を消費しているか」をリアルタイムかつ正確に把握し、そのデータを経営改善に活かすことです。

これまでの漠然とした節電活動とは一線を画し、データという客観的な事実に基づいて、工場のエネルギー消費構造を根本から理解する。これが、生産性向上と利益改善を実現する「工場の電気使用量見える化」の第一歩であり、本質なです。

単なる節電ではないデータを活用したエネルギーマネジメント

従来の節電は、「こまめに照明を消す」「空調の設定温度を調整する」といった、従業員の意識や努力に頼る部分が大きいものでした。もちろんこれらの活動も重要ですが、効果が限定的であったり、継続が難しかったりする課題がありました。

一方、データに基づいたエネルギーマネジメントは、より科学的かつ効果的なアプローチを可能にします。見える化によって得られるデータを活用することで、以下のような具体的なアクションに繋がります。

  • 電力消費のムダ・ムラ・ムリの特定: 設備別、工程別、時間帯別に電力消費量を詳細に分析することで、待機電力が大きい設備や、非効率な稼働をしている工程を特定し、ピンポイントで改善策を講じることができます。
  • デマンド値の最適化: 電気の基本料金を決定する最大需要電力(デマンド値)をリアルタイムで監視。設定した上限値を超えそうになるとアラートを発報する「デマンド監視」を行うことで、意図しない基本料金の上昇を防ぎます。これにより、生産活動を大きく妨げることなく、電気の基本料金を計画的に削減できます。
  • 生産量との相関分析(電力原単位の管理): 製品を1つ生産するために必要な電力量(電力原単位)を算出・管理することで、生産効率を客観的に評価できます。原単位が悪化していれば、設備の不調や作業方法の問題など、根本原因の特定に繋がります。
  • 予防保全への活用: 普段と異なる電力消費パターンを検知することで、モーターの劣化やベアリングの摩耗といった設備の異常や故障の予兆を早期に発見できます。これにより、突然の設備停止(ダウンタイム)を防ぎ、安定生産に貢献します。

このように、「見える化」は感覚的な節電から脱却し、データに基づいた継続的な改善サイクル(PDCA)を回すための、戦略的なエネルギーマネジメントの根幹をなすものなのです。

BEMSやFEMSとの違いと連携の重要性

工場のエネルギー管理を語る上で、「BEMS(ベムス)」や「FEMS(フェムス)」といった言葉を耳にすることがあります。「見える化」とこれらのシステムは密接に関連していますが、その役割には違いがあります。それぞれの特徴を理解し、自社の目的に合ったシステムを検討することが重要です。

「見える化システム」がエネルギー消費の現状を「把握・分析」することに主眼を置いているのに対し、BEMSやFEMSは、その先の「管理・制御・最適化」まで踏み込んだ機能を持つシステムです。

種類正式名称主な目的・機能対象範囲
見える化システム(特定の名称なし)
電力監視システムなど
電力使用量の計測・データ収集・表示・分析。
現状把握と課題発見が中心。
工場全体の電力、特定の設備やラインなど、目的に応じて柔軟に設定可能。
BEMSBuilding Energy Management System
(ビルエネルギー管理システム)
収集したデータに基づき、空調・照明・換気設備などを自動制御し、快適性を保ちつつエネルギー消費を最適化する。オフィスビル、商業施設、病院など、建物全体。
FEMSFactory Energy Management System
(工場エネルギー管理システム)
生産設備とユーティリティ設備(空調・コンプレッサー等)の両方を統合管理。生産計画と連携し、工場全体のエネルギー効率を最適化する。工場全体(生産ラインを含む)。

ここで重要なのは、これらが排他的な関係ではないという点です。むしろ、「見える化」は、より高度なエネルギー管理システムであるBEMSやFEMSを導入するための最初のステップとして極めて有効です。

まずは比較的導入しやすい「見える化システム」で自社のエネルギー消費の実態を正確に把握し、具体的な課題を抽出します。その上で、特定された課題を解決するために、自動制御機能を持つBEMSや、生産と連携した最適化が可能なFEMSへとステップアップしていくのが、最も効果的で無駄のない投資と言えるでしょう。見える化で得られた詳細なデータは、FEMSなどを導入する際の重要な基礎情報となり、システムの精度を大きく向上させることにも繋がります。

電気使用量の見える化が工場にもたらす5つの具体的メリット

工場の電気使用量を見える化することは、単に電気の使用状況をグラフで眺めることではありません。収集したデータを分析・活用することで、経営に直結する多岐にわたるメリットが生まれます。ここでは、見える化がもたらす5つの具体的なメリットを、深く掘り下げて解説します。

メリット1 大幅な電気代コストの削減

見える化がもたらす最も直接的で大きなメリットは、電気代という固定費を変動費のようにコントロールし、大幅なコスト削減を実現できる点です。勘や経験に頼った節電活動とは異なり、データに基づいた的確なアプローチが可能になります。

具体的には、以下のような無駄な電力消費を特定し、改善策を講じることができます。

  • 待機電力の特定:工場が稼働していない夜間や休日に、どの設備がどれだけの電力を消費しているかを正確に把握できます。これにより、不要な待機電力を徹底的に削減する運用ルールを策定できます。
  • 非効率な設備の発見:同じ型式・工程の設備でも、個体によって電力消費効率が異なる場合があります。見える化によって、エネルギー効率の悪い「電力浪費設備」を特定し、メンテナンスや更新の優先順位を判断できます。
  • デマンド値の抑制:電気の基本料金を決定する最大デマンド電力(デマンド値)。30分ごとの使用電力を監視し、設定した目標値を超えそうになった際に警報(アラート)を発するデマンド監視が可能になります。これにより、生産計画への影響を最小限に抑えながら、空調の一時停止や一部設備の稼働調整といったピークカット・ピークシフトを行い、基本料金を確実に削減できます。
課題見える化によるアプローチ期待される効果
休日・夜間の待機電力が不明設備ごとの非稼働時間帯の電力消費量を計測・分析する。不要な電源のオフを徹底し、年間数十万円以上の待機電力コストを削減。
デマンド超過による基本料金の高止まりデマンド値をリアルタイムで監視し、超過予測時にアラートを出す。計画的なピークカット・ピークシフトにより、電気の基本料金を10%以上削減。
どの設備が電力を消費しているか不明生産ラインや主要設備ごとに電力センサーを設置し、稼働実態を把握する。非効率な設備を特定し、運用改善や更新計画の根拠とする。

メリット2 設備の異常検知による生産性向上とダウンタイム削減

電力データは、設備の健康状態を示す重要なバロメーターです。電力消費のパターンを継続的に監視することで、設備が完全に故障する前の「予兆」を捉え、計画的なメンテナンス(予兆保全・予知保全)を実現できます。これにより、突然の設備停止による生産ラインのストップ(ダウンタイム)を未然に防ぎ、工場の生産性を飛躍的に向上させます。

例えば、以下のような異常検知が可能です。

  • モーターの異常:モーターのベアリングが摩耗したり、潤滑油が切れたりすると、負荷が増大して電流値が通常よりも高くなります。この微細な変化を捉えることで、本格的な焼き付き故障に至る前に対処できます。
  • コンプレッサーのエア漏れ:配管からのエア漏れが発生すると、コンプレッサーは漏れた分を補うために余計に稼働し、電力消費量が増加します。生産量と電力消費量の相関関係を分析することで、目に見えないエア漏れを発見できます。
  • ポンプの空転:ポンプが液体を正常に送れず空転している状態では、電力消費パターンに特有の乱れが生じます。これを検知し、原料供給のトラブルや機器の損傷を防ぎます。

突発的な故障は、生産計画の遅延だけでなく、緊急修理による高額なコストや人的リソースの浪費にも繋がります。予兆保全は、ダウンタイムを削減し、安定した生産体制を維持するための強力な武器となるのです。

メリット3 根拠のある省エネ目標設定と従業員の意識改革

「電気を大切に」「無駄遣いをなくそう」といった精神論だけでは、継続的な省エネ活動は長続きしません。見える化は、全社的な省エネ活動を推進するための客観的な「共通言語」を提供します。

まず、生産量や製品種別ごとの電力使用量(電力原単位)を正確に把握できるため、「前年比5%削減」といった漠然とした目標ではなく、「製品Aの生産における電力原単位を3%改善する」といった、具体的で測定可能な目標(KPI)を設定できます。目標が明確になることで、現場の従業員は何をすべきかが分かりやすくなります。

さらに、デジタルサイネージなどで工場内の電力使用状況をリアルタイムに表示すれば、従業員一人ひとりが自分たちの行動と電力消費の増減を直接結びつけて考えるようになります。これにより、「あの設備の電源を切り忘れていた」「空調の設定温度が高すぎた」といった日々の小さな気づきが生まれ、自発的な省エネ行動が促進されます。データに基づいたPDCAサイクルを回すことで、省エネ活動は形骸化することなく、企業文化として定着していくでしょう。

メリット4 最適な設備投資計画の立案と実行

省エネ性能の高い最新設備への更新は、長期的なコスト削減に不可欠ですが、多額の初期投資が必要です。経営層を納得させ、適切な投資判断を下すためには、客観的なデータに基づいた根拠が欠かせません。

電気使用量の見える化は、この課題を解決します。どの設備が最もエネルギー効率が悪く、更新による費用対効果(ROI)が最も高いかを、実際の稼働データに基づいて正確にシミュレーションできます。

項目旧型コンプレッサーA(現状)新型高効率コンプレッサーB(予測)
年間電力消費量100,000 kWh70,000 kWh(データに基づく30%削減予測)
年間電気料金250万円(@25円/kWh)175万円(@25円/kWh)
年間削減効果75万円
設備投資額300万円
投資回収期間4.0年

上記のように具体的な数値を提示することで、勘や経験に頼った場当たり的な設備投資ではなく、データドリブンな戦略的投資計画の立案が可能になります。また、補助金申請の際にも、削減効果を定量的に示すための信頼性の高いデータとして活用できます。

メリット5 ESG経営における企業価値の向上

現代の企業経営において、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を重視する「ESG経営」は、投資家や金融機関、そして取引先からの評価を左右する重要な要素となっています。電気使用量の見える化は、この「E(環境)」への取り組みを具体的に証明する上で極めて有効です。

見える化によって、自社のエネルギー消費量と、それに伴うCO2排出量を正確に把握・管理できるようになります。これにより、以下のようなメリットが生まれます。

  • 信頼性の高い情報開示:CSR報告書や統合報告書、ウェブサイトなどで、具体的な数値データに基づいた環境負荷低減への取り組みを開示できます。これは、企業の透明性と信頼性を高めます。
  • サプライチェーンからの要求への対応:近年、大手企業を中心に、取引先に対してもCO2排出量削減を求める「グリーン調達」の動きが加速しています。自社の排出量を正確に報告できる体制は、取引を継続・拡大する上での競争優位性に繋がります。
  • 省エネ法への的確な対応:省エネ法で定められたエネルギー使用状況の定期報告義務に対して、正確かつ効率的に対応できます。

もはや、環境への取り組みは単なる社会貢献活動ではありません。企業の持続的な成長とブランド価値向上に直結する、重要な経営戦略の一環なのです。電気使用量の見える化は、その第一歩として不可欠な取り組みと言えるでしょう。

工場の電気使用量を見える化する代表的な3つの方法

工場の電気使用量を見える化するといっても、そのアプローチは一つではありません。工場の規模、既存の設備状況、かけられる予算、そして「何をどこまで知りたいか」という目的に応じて、最適な方法は異なります。ここでは、代表的な3つの見える化の方法を、それぞれの特徴やメリット・デメリットと合わせて具体的に解説します。自社の状況に最適な方法を見つけるための参考にしてください。

方法1 クランプ式センサーとIoTゲートウェイで手軽に始める

「まずはスモールスタートで効果を試したい」「大掛かりな工事は避けたい」という工場に最もおすすめなのが、クランプ式センサーとIoTゲートウェイを活用する方法です。これは、既存の設備を大きく変更することなく、比較的低コストで迅速に電力の見える化を始められる点が最大の魅力です。

仕組みは非常にシンプルです。まず、計測したい設備の配線や分電盤のブレーカーに、配線を切断することなく挟むだけで設置できる「クランプ式センサー」を取り付けます。このセンサーが電流値を計測し、そのデータを「IoTゲートウェイ」と呼ばれる小型の通信機器に集約。ゲートウェイは収集したデータをインターネット経由でクラウドサーバーに送信します。担当者は、パソコンやスマートフォンのブラウザから専用の管理画面(ダッシュボード)にアクセスするだけで、ほぼリアルタイムで電力使用状況をグラフなどで直感的に把握できるようになります。

項目特徴
導入の手軽さ非常に高い。専門家でなくても設置可能な製品が多く、工場の稼働を止める必要がない。
コスト初期費用、ランニングコストともに比較的安価。センサー1台数万円から始められる。
計測データ主に電流値。製品によっては電圧や皮相電力を計測できるものもある。
メリット・低コスト、短期間で導入可能
・生産ラインを止めずに設置できる
・特定の設備やエリアに絞って始められる
デメリット・注意点・詳細な電力品質(力率など)の分析には不向きな場合がある
・計測箇所が増えるとセンサー管理が煩雑になる可能性がある
・設備の稼働状況との直接的な連携は難しい

この方法は、特に中小規模の工場や、特定のエネルギー消費が大きい設備(コンプレッサー、大型モーター、空調など)の使用状況をピンポイントで把握したい場合に非常に有効です。まずは見える化の第一歩として、コストを抑えながら具体的なデータに基づいた省エネ活動を始めたい工場に最適な選択肢と言えるでしょう。

方法2 PLCデータを活用し既存設備と連携する

多くの工場では、生産設備を制御するためにPLC(プログラマブルロジックコントローラ)が導入されています。この既存のPLCが持つデータを活用するのが、次にご紹介する方法です。新たなセンサー設置を最小限に抑え、より付加価値の高いデータ分析を実現できる可能性があります。

PLCは、機械のON/OFFや動作シーケンスを制御するだけでなく、接続されているモーターの電流値や設備の稼働時間、生産個数といった多様な情報を内部に保持しています。このPLC内のデータを、専用のソフトウェアやIoTゲートウェイを介して収集し、電力使用量のデータと統合します。これにより、「どの製品をいくつ生産したときに、どれだけの電力を消費したか」という生産原単位を正確に算出できるようになります。

単に「電力を使いすぎている」という事実だけでなく、「なぜ使いすぎているのか」という原因を、設備の稼働状況と紐づけて深く掘り下げられるのが、この方法の最大の強みです。例えば、同じ製品を生産していても、特定の時間帯や特定の設備で電力原単位が悪化していることが分かれば、それは設備の不調や非効率な稼働のサインかもしれません。このように、省エネだけでなく、生産性の向上や予防保全にも直結するインサイトを得ることが可能です。

項目特徴
導入の手軽さ中程度。PLCのプログラムや通信プロトコルに関する知識が必要なため、専門家の協力が推奨される。
コストセンサー費用は抑えられるが、データ収集用のソフトウェアやシステム構築費用が発生する。
計測データ電力データに加え、設備の稼働状況、生産数、エラー情報など、PLCが持つ多様なデータ。
メリット・電力消費と生産活動を紐づけて分析できる
・生産原単位の見える化が可能
・既存資産(PLC)を有効活用できる
デメリット・注意点・PLCが古い機種で通信機能がない場合は利用できない
・システム構築に専門的な知識が必要
・PLCのプログラム変更が必要になる場合がある

すでにFA(ファクトリーオートメーション)化が進んでおり、多くの設備がPLCで制御されている工場にとって、非常に効果的なアプローチです。単なる節電に留まらず、データに基づいた生産プロセスの改善を目指す工場に最適な方法です。

方法3 クラウド型エネルギー管理システムを導入する

工場全体のエネルギー効率を最大化し、継続的な改善活動(PDCAサイクル)を回していくことを目指すなら、クラウド型のエネルギー管理システム(BEMSやFEMS)の導入が最も強力な選択肢となります。これは、電力だけでなく、ガス、水道、蒸気、重油といった工場で使われるあらゆるエネルギーを一元的に管理・分析するための包括的なソリューションです。

この方法では、工場内の各所に設置されたセンサーやPLC、既存の監視システムなどからデータを収集し、すべてクラウド上のプラットフォームに集約します。利用者は、Webブラウザを通じて高度な分析ツールやレポート機能を利用できます。主な機能として、以下のようなものが挙げられます。

  • デマンド監視・制御:電力需要のピークを予測し、自動または手動で設備を制御することで、電気の基本料金を削減します。
  • 多拠点管理:複数の工場や事業所のエネルギー使用状況を同じプラットフォームで比較・分析し、全社的なエネルギー最適化を推進します。
  • エネルギー原単位分析:生産量や温度・湿度などの外部データとエネルギー消費量を連携させ、より精度の高い分析を実現します。
  • レポート自動作成:省エネ法で定められた定期報告書や、社内向けの改善レポートなどを自動で作成し、管理業務を大幅に効率化します。

場当たり的な節電ではなく、データに基づいた戦略的なエネルギーマネジメントを組織全体で実践できることが、この方法の最大のメリットです。また、ESG経営や脱炭素社会への対応といった観点からも、エネルギー使用量を正確に把握し、削減目標の達成度を管理できるこれらのシステムは、企業の社会的価値を高める上で不可欠なツールとなりつつあります。

項目特徴
導入の手軽さ低い。システム選定、要件定義、設置工事、運用体制の構築など、計画的な導入プロセスが必要。
コスト初期費用・ランニングコストともに高額になる傾向があるが、補助金の活用も可能。
計測データ電力、ガス、水道、蒸気など工場全体のエネルギーデータ。生産情報や環境データとの連携も可能。
メリット・工場全体のエネルギーを統合管理できる
・デマンド制御による基本料金削減効果が高い
・省エネ法やESG経営への対応が容易になる
デメリット・注意点・導入コストが高い
・多機能なため、システムを使いこなすための知識や体制が必要
・費用対効果を事前にしっかり検討する必要がある

大規模な工場や、省エネ法で特定事業者に指定されている企業、あるいは環境経営を強力に推進したい企業にとって、最も効果的で本格的なソリューションと言えるでしょう。

【事例紹介】見える化で利益改善に成功した国内工場の取り組み

電気使用量の見える化は、もはや単なるコスト削減施策ではありません。生産性の向上や企業価値の向上に直結する重要な経営戦略です。ここでは、実際にエネルギーマネジメントシステムを導入し、大きな成果を上げた国内工場の事例を2つ、具体的にご紹介します。自社の課題と照らし合わせながら、導入後の姿をイメージしてみてください。

大手自動車部品工場A社の事例 稼働状況の把握と予防保全

国内有数の大手自動車部品メーカーであるA社では、大規模な生産拠点におけるエネルギーコストの増大と、設備の突発的な停止による生産ロスが長年の課題でした。特に、プレス機や溶接ロボットなど、電力消費の大きい設備が多数稼働しており、どの設備がいつ、どれだけの電力を使用しているのかを正確に把握できていない状態でした。

導入前の課題

  • 工場全体の電気料金は把握できるものの、生産ライン別・設備別の詳細な電力消費量が不明確だった。
  • 設備の老朽化に伴い、予期せぬ故障によるダウンタイムが頻発し、生産計画に大きな影響を与えていた。
  • 全社的な省エネ目標に対し、データに基づいた具体的な削減策を立案・実行できずにいた。

見える化による取り組みと成果

A社は、主要な生産ラインと大型設備にIoT対応の電力センサーを設置し、クラウド型のエネルギー管理システム(FEMS)を導入。これにより、これまでブラックボックスだった電力使用状況がリアルタイムで可視化されました。

具体的な取り組みとして、まず設備ごとの稼働状況と電力消費量の相関データを分析。これにより、非稼働時間帯にもかかわらず電力を消費し続けている「電力の無駄遣い」を特定し、待機電力の削減ルールを徹底することで、即座にコスト削減効果が現れました。

さらに大きな成果は、予防保全への活用です。システムは平常時の電力消費パターンを学習し、異常な電力消費の波形を検知するとアラートを発します。例えば、モーターの電流値が通常より高くなった場合、ベアリングの摩耗や潤滑油不足といった故障の前兆である可能性が高いと判断できます。この仕組みにより、本格的な故障が発生する前にメンテナンスを実施する「予知保全」が可能となり、突発的なダウンタイムを劇的に削減することに成功しました。

項目成果
電気料金年間で約12%(数千万円規模)のコスト削減を達成。
生産性設備異常によるダウンタイムが約40%減少し、生産性が大幅に向上。
設備投資各設備のエネルギー効率をデータで評価し、費用対効果の高い設備更新計画を策定可能に。

中小食品工場B社の事例 デマンド監視による基本料金の削減

冷凍食品を製造する中小企業のB社では、電気料金の中でも毎月固定でかかる「基本料金」の高さが経営を圧迫していました。基本料金は、過去1年間で最も電力を使用した30分間の平均電力(デマンド値)によって決まります。B社では、どのタイミングでデマンド値がピークに達するのか把握できておらず、対策が打てない状況でした。

導入前の課題

  • 夏場の冷凍機のフル稼働時など、意図せずデマンド値が更新され、その後1年間の基本料金が高止まりしていた。
  • 従業員に節電を呼びかけても、効果的なピークカットに繋がっていなかった。
  • 生産計画と電力消費のピークが連動しておらず、非効率なエネルギー利用が発生していた。

見える化による取り組みと成果

B社は、比較的安価に導入できるデマンド監視装置とクラウドサービスを導入。工場全体の電力使用量をリアルタイムで監視し、設定したデマンド目標値を超えそうになると、事務所のパトライトが点灯し、担当者のスマートフォンにアラート通知が届く仕組みを構築しました。

この仕組みにより、電力使用量がピークに近づいていることを全従業員が即座に把握できるようになりました。アラートが作動した際には、あらかじめ定めておいた「生産に直接影響しない空調を一時的に停止する」「複数の冷凍機のうち1台を短時間オフにする」といった運用ルールを実行。これにより、デマンド値の突出(ピーク)を意識的に抑制する「ピークカット」に成功しました。

また、過去の電力使用データを分析することで、複数の大型調理釜を同時に稼働させる時間帯がデマンドピークの主な原因であることを特定。生産スケジュールを調整し、電力需要のピークを分散させる「ピークシフト」も実現しました。これらの取り組みの結果、契約電力を大幅に引き下げることができ、経営改善に大きく貢献しました。

項目成果
電気料金契約電力を15%削減し、年間の基本料金を約200万円削減。
従業員の意識電力の「見える化」により、従業員一人ひとりの省エネ意識が向上し、組織的な改善活動が定着。
生産効率電力使用の観点から生産工程を見直した結果、エネルギーコストの最適化と生産効率の向上が同時に実現。

導入前に確認必須 費用相場と活用できる補助金制度

工場の電気使用量見える化がもたらすメリットは大きいものの、導入にあたって最も気になるのが「費用」ではないでしょうか。システム導入には一定のコストがかかりますが、その内訳や相場を事前に把握し、活用できる補助金制度を賢く利用することで、投資対効果を最大化することが可能です。この章では、導入計画に不可欠な費用と補助金に関する情報を詳しく解説します。

見える化システムの導入にかかる費用の内訳

見える化システムの導入費用は、大きく「初期費用(イニシャルコスト)」と「運用費用(ランニングコスト)」の2つに分けられます。自社の規模や求める機能、既存設備の状況によって費用は大きく変動するため、それぞれの内訳を正確に理解しておくことが重要です。

初期費用(イニシャルコスト)

初期費用は、システムの導入時に一度だけ発生するコストです。主な内訳は以下の通りです。

  • ハードウェア費用:電力データを計測するためのセンサー(クランプ式センサーなど)、データを集約・送信するIoTゲートウェイ、情報を処理・保存するサーバーなどの機器購入費用です。計測する箇所の数や工場の広さによって変動します。
  • ソフトウェア費用:収集したデータを分析・可視化するための管理システムのライセンス費用です。買い切り型のパッケージソフトや、クラウドサービスの初期設定費用などが含まれます。
  • 設置・工事費用:センサーの取り付けや配線工事、システム全体のセットアップ作業などにかかる費用です。専門の技術者による作業が必要となり、工場の稼働状況を考慮したスケジュール調整が求められる場合もあります。
  • コンサルティング・教育費用:どの設備をどのように計測するかといった導入計画のコンサルティングや、導入後のシステム操作方法に関する従業員へのトレーニング費用が含まれることもあります。

運用費用(ランニングコスト)

運用費用は、システムを継続して利用するために定期的に発生するコストです。

  • クラウド利用料・ライセンス料:特にクラウド型のシステムを導入した場合に、月額または年額で発生するサービス利用料です。システムのアップデートやセキュリティ維持の費用も含まれていることが一般的です。
  • 保守・メンテナンス費用:ハードウェアの故障対応やソフトウェアのアップデート、定期的なシステム点検など、安定稼働を維持するための費用です。保守契約の内容によって費用は異なります。
  • 通信費用:IoTゲートウェイがデータをクラウドに送信するためのインターネット回線費用など、通信にかかるコストです。

これらの費用は、選択するシステムの方式や規模によって大きく異なります。以下に、一般的な費用相場の目安をまとめました。

システムの種類・規模初期費用(目安)月額運用費用(目安)
クランプ式センサーで手軽に開始(小規模)50万円~300万円数千円~数万円
PLCデータを活用(中規模)300万円~1,000万円数万円~十数万円
クラウド型BEMS/FEMSを本格導入(大規模)1,000万円~数千万円十数万円~

この表はあくまで一般的な目安です。正確な費用を把握するためには、必ず複数のシステムベンダーから見積もりを取得し、機能やサポート内容を比較検討することが不可欠です。

省エネルギー投資促進支援事業費補助金などを活用する

国や地方自治体は、企業の脱炭素化や省エネルギーへの取り組みを後押しするため、様々な補助金制度を用意しています。これらの制度を有効活用することで、見える化システムの導入にかかる初期投資の負担を大幅に軽減できます。

代表的な国の補助金制度

省エネ設備の導入に活用できる代表的な国の補助金として、経済産業省資源エネルギー庁が管轄する「省エネルギー投資促進支援事業費補助金」が挙げられます。この補助金は複数の事業類型に分かれており、見える化システムの導入は特に以下の事業で対象となるケースが多くあります。

  • (C)指定設備導入事業:国が定めた高い省エネ性能を持つユーティリティ設備(空調、ボイラー、コンプレッサーなど)や生産設備の導入を支援するものです。これらの設備と連携するエネルギー管理システム(EMS)も補助対象に含まれる場合があります。
  • (D)エネルギーマネジメントシステム(EMS)導入事業:EMSを導入し、エネマネ事業者と契約してエネルギー管理支援サービスを利用する場合に、EMSの導入費用(ハードウェア、ソフトウェア、工事費など)の一部が補助されます。工場の電気使用量見える化に直結する、最も活用しやすい事業の一つです。

これらの補助金は毎年公募されますが、公募期間や要件、補助率などが変更される可能性があるため、常に最新の情報を資源エネルギー庁のウェブサイトなどで確認することが重要です。

地方自治体の補助金制度

国の制度に加えて、都道府県や市区町村が独自に省エネ設備導入に関する補助金や助成金制度を設けている場合も少なくありません。例えば、東京都の中小企業向け省エネ促進税制や、各県が実施する中小企業省エネルギー設備導入支援事業などがあります。自社の工場が所在する地方自治体のウェブサイトを確認し、「省エネ 補助金」などのキーワードで検索してみることを強くお勧めします。

補助金活用のポイントと注意点

補助金を効果的に活用するためには、いくつかのポイントと注意点があります。

  • 公募期間の確認と早期準備:補助金の多くは公募期間が定められており、人気のあるものは早期に予算上限に達し、締め切られることがあります。導入を検討し始めた段階からアンテナを張り、公募開始後すぐに申請できるよう、必要書類の準備を早めに進めましょう。
  • 申請要件の精査:補助金ごとに、対象となる事業者(資本金や従業員数など)、対象設備、省エネ効果率の基準など、詳細な要件が定められています。公募要領を熟読し、自社の計画が要件を完全に満たしているかを確認する必要があります。
  • 専門家への相談:申請手続きは複雑で、多くの書類作成が求められます。システム導入を依頼するベンダーの多くは補助金申請のサポート経験が豊富です。また、中小企業診断士や行政書士といった専門家に相談することも有効な手段です。
  • 「事業実施後」の申請は不可:ほとんどの補助金は、設備の契約や発注を行う前に申請し、交付決定を受ける必要があります。順番を間違えると補助対象外となるため、スケジュール管理には細心の注意を払ってください。

適切な費用計画と補助金の活用は、工場の電気使用量見える化を成功させるための重要な鍵となります。情報収集を怠らず、賢く制度を利用して、持続可能な工場経営への第一歩を踏み出しましょう。

まとめ

電気料金の高騰や省エネ法への対応が急務となる今、工場の電気使用量見える化は、コスト削減に留まらず、競争力を高めるための必須の経営戦略です。見える化は、設備の異常検知による生産性向上や、データに基づく最適な設備投資計画を可能にします。本記事で紹介した導入方法や「省エネルギー投資促進支援事業費補助金」などを活用し、自社に最適なシステム導入を検討することが、持続可能な工場経営の実現につながります。