企業における電気設備は、安定した事業運営や法令遵守、安全確保のために定期的な点検・更新が不可欠です。本記事では、法定基準や日本産業規格(JIS)、労働安全衛生法などに基づいた点検・更新スケジュールの立て方と管理方法、トラブル回避のポイントまで実務に役立つ情報を分かりやすく解説します。
企業における電気設備点検と更新の重要性

企業活動を安全かつ安定的に継続する上で、電気設備の定期的な点検と計画的な更新は極めて重要です。オフィス、工場、商業施設など、あらゆる事業所で電気は欠かせないインフラとなっており、その機能に不具合が生じると、生産ラインの停止や業務の中断、さらには人命や財産に関わる重大事故に発展するリスクがあります。企業が社会的責任を果たし、信頼を維持するためにも、電気設備の健全性を保つことは不可欠です。
事業継続の観点から見た重要性
企業にとって安定した電力供給は、業務の効率化やサービス品質の向上、BCP(事業継続計画)の観点から不可欠です。電気設備の不良や故障が重大事故や長時間の停電を引き起こした場合、生産ラインの停止やサーバーのダウン、情報漏洩などのリスクが高まります。こうした被害は直接的な損失だけでなく、取引先や顧客からの信頼低下、社会的信用の失墜にもつながります。点検と更新の徹底による未然防止が、企業経営の安定と成長に直結しています。
法令遵守とコンプライアンス
企業は、電気事業法や労働安全衛生法、消防法などの関連法令により、定期的な点検や一定年数ごとの更新、設備検査などが義務付けられています。法令違反が発覚した場合には、行政指導や罰則、損害賠償の発生など大きなリスクとなります。また、近年重視されているESG(環境・社会・ガバナンス)経営やコンプライアンスの観点からも、法令順守によるリスク管理とガバナンス強化のために、点検・更新体制の整備は欠かせません。
安全・安心な職場環境の確保
従業員が安全に安心して働ける職場環境を維持する上でも、電気設備の適切な点検と定期的な更新は必須です。劣化した設備の放置は、漏電や感電火災、設備爆発といった労働災害の原因となり、重大な事故につながります。定期的な点検を実施し、摩耗や絶縁不良などを早期に発見・対策することで、事故の未然防止と労働安全の確保に繋がります。
コスト最適化と長期的な設備運用の実現
定期的なメンテナンスと計画的な更新によって、不具合や故障の発生を低減できるため、予期せぬ修理費やダウンタイムによる損失を最小限に抑えることが可能です。また、最新設備への更新は省エネや運用効率化による電気料金削減、環境負荷低減にも貢献します。適切な点検・更新の繰り返しが、トータルコストの最適化と設備の長寿命化につながります。
観点 | 電気設備点検・更新によるメリット |
---|---|
事業継続 | 停電や事故による業務停止を防止し、BCPを強化 |
法令遵守 | 関係法令の順守によるリスク回避と企業イメージの向上 |
労働安全 | 労働災害の未然防止・職場の安全確保 |
コスト | 予防保全による突発的コストの削減・運用の最適化 |
環境対応 | 省エネ機器導入による環境負荷低減へ寄与 |
主な電気設備の種類とその役割

企業において設置・維持管理が必要な主な電気設備は多岐にわたります。以下の表では、代表的な電気設備とその機能、役割について整理しています。
設備名 | 主な役割 | 設置例・ポイント |
---|---|---|
受変電設備 | 電力会社から受電した高電圧電力を、施設で使用できる低電圧に変圧・配分します。 | 工場・オフィスビル・商業施設等。設備容量や変圧器の種類によって適切な点検が必要です。 |
分電盤(配電盤) | 施設全体や各フロア・主要区画へ電力を安全に配分します。漏電・過負荷等の保護も担います。 | 建物内の各所に設置。定期的な清掃と絶縁抵抗測定が不可欠です。 |
自家用発電機・非常用発電機 | 停電や災害発生時に電力を供給し、重要機器や防災設備の稼働を維持します。 | 病院や防災拠点では法令による設置義務あり。燃料や起動試験の管理も重要です。 |
蓄電池設備 | 一時的な停電やピークカット対策として、電力を充放電し安定供給を補助します。 | 無停電電源装置(UPS)や非常灯用設備として設置されるケースが多いです。 |
照明設備 | 業務遂行や安全確保、避難経路表示のための照明を提供します。 | LED化や人感センサー導入など、省エネ化・保守性向上が重視されています。 |
動力設備 | ポンプ、ファン、エレベーターといった機械設備への電源供給を行います。 | 工場や大型建築物で多用。制御盤やインバータなど周辺機器も管理が必要です。 |
防災関連電気設備 | 自動火災報知設備、非常灯、誘導灯、排煙ファン等の防災関連システムを指します。 | 消防法等の法令により定期点検が義務付けられています。 |
情報通信設備 | ネットワークや電話、監視カメラ等の機器に対する安定した電源供給を担います。 | サーバールーム・警備室に無停電装置や専用配線を設置。 |
各設備の役割と管理ポイント
各設備には独自の役割と機能があり、運用上のリスクや点検・更新時の注意点も異なります。設備ごとに一般的な不具合リスクや管理ポイントを把握しておくことで、安定稼働を実現し事故や障害を未然に防止することが可能です。
主な設備種別 | 主な不具合・リスク | 管理上の注意点 |
---|---|---|
受変電設備・分電盤 | 接触不良・絶縁不良・漏電・アーク発生 | 定期掃除・端子締付・専門業者による精密点検が不可欠 |
非常用発電機・蓄電池 | 始動不良・バッテリー劣化・燃料漏れ | 始動試験、燃料・バッテリーの期限管理・年次点検が必要 |
照明・防災設備 | ランプ切れ・電源断・誤動作 | 法定点検と早期交換、記録の保存・管理が求められる |
動力・情報通信 | モーター停止・サーバーダウン・断線 | 予備電源整備やUPS導入、配線の見直しも重要 |
これらを理解したうえで、設備ごとに適切な点検・更新スケジュールの設計を行うことが、企業にとっての安定した事業運営・BCP(事業継続計画)対応の基盤となります。
法令やガイドラインによる点検と更新の基準

企業が電気設備の点検や更新を実施する際には、関係法令および各種ガイドラインに則った厳格な管理が求められます。違反が発覚した場合には罰則や行政指導のリスクがあるだけでなく、重大な事故やトラブルの未然防止の観点からも非常に重要です。ここでは、国内主要法令や指針について詳しく整理します。
電気事業法・労働安全衛生法などに基づく規定
電気事業法では、事業用電気工作物の設置、保守、点検、及び変更・廃止について厳しい規定があります。
労働安全衛生法においても、高圧・特別高圧設備の点検や保守が定められており、定期点検・保守点検の記録保存義務があります。
法令・基準名 | 対象設備 | 主な点検・更新義務 |
---|---|---|
電気事業法 | 受変電設備、発電所等 | 定期点検(年次・月次)、管理技術者の選任、点検記録の保存 |
労働安全衛生法 | 高圧・特別高圧受電設備 | 月次・年次点検、保守記録作成、保管義務 |
建築基準法 | 建築物附属電気設備 | 安全性確保の維持、老朽設備の適切な更新 |
点検周期や義務内容は、設備規模や業種によって異なるため、自社の設備規模や用途に応じた法令遵守が非常に重要です。
日本産業規格(JIS)と消防法の関連事項
日本産業規格(JIS)は、電気設備部品の品質・性能を規定しているだけでなく、定期的な試験や点検基準も明文化しています。
消防法では感知器や避難設備、非常用電源装置等の点検義務が規定されており、所轄消防署への年次報告が必要です。
基準・法令 | 該当設備 | 具体的な内容 |
---|---|---|
JIS C 60079、C 8306 など | 配線・分電盤、照明設備 | 規格に基づく点検・劣化判断基準、程度に応じた適切な交換 |
消防法 | 非常用発電機、誘導灯、感知器 | 半年ごとの総合点検・年次点検、所轄消防への報告義務 |
これらの法的要求や技術基準を適切に組み合わせ、企業ごとに最適な点検・更新スケジュールを構築することが、事故リスクの低減と安定した事業継続のカギとなります。現行制度の改定や最新の告示にも注目しながら、ガイドラインに基づいた運用を心がけましょう。
電気設備の点検スケジュールの基本

企業が保有または使用している電気設備は、安全確保と災害・事故の未然防止、さらに法令遵守のために、計画的な点検とメンテナンスが不可欠です。電気事業法や労働安全衛生法などの法令では、点検の頻度や実施内容が具体的に定められており、企業はこれに則ってスケジュールを組み、適切に運用する責任があります。点検には主に「法定点検」と「自主点検(巡視点検)」があり、それぞれ実施頻度や内容が異なるため、各種設備とリスクアセスメントに応じた計画的な管理が求められます。
法定点検の頻度と実施内容
法定点検とは、電気事業法・労働安全衛生法・消防法などに基づき、必ず所定の周期・方法で行わなければならない点検を指します。主な設備と点検周期、主な点検内容の一般的な例は以下の通りです。
設備名 | 法定点検周期 | 主な点検内容 |
---|---|---|
受変電設備 | 年1回以上 | 絶縁抵抗測定、保護装置作動試験、目視点検 |
非常用発電設備 | 年1回以上 | 始動・運転試験、燃料・配線確認 |
自家用電気工作物 | 月1回以上/年1回精密点検 | 外観点検、動作確認、機器更新の有無確認 |
消防用設備(誘導灯・非常照明等) | 6ヶ月〜1年に1回 | 点灯・作動確認、蓄電池の劣化チェック |
法定点検を怠ると法令違反となるだけでなく、実際のトラブルが発生しやすくなります。
自主点検・巡視点検のスケジュール例
法定点検に加え、企業独自で行う「自主点検」や「巡視点検」も非常に重要です。日常的・定期的な点検によって、小さな異常や経年劣化を速やかに発見し、トラブルを未然に防ぐことが可能です。
対象設備 | 推奨頻度 | 主な確認事項 |
---|---|---|
受変電設備 | 月1回以上 | 外観異常の有無、温度・音・臭気の確認、計器類の値の記録 |
分電盤・ブレーカー | 半年〜1年に1回 | 器具の歪みや緩み、表示ランプの異常 |
照明設備 | 月1回〜3ヶ月に1回 | 点灯状況、点滅器の動作、球切れ・カバーの汚損確認 |
漏電遮断器 | 3ヶ月〜6ヶ月に1回 | テストボタン動作、トリップ確認 |
点検スケジュールの基本方針として、法定点検を基準としつつ、設備重要度や過去の不具合履歴、メーカー推奨に基づき、より細やかな自主管理を組み合わせることが最適です。点検記録を蓄積することで、将来の予防保全や更新計画の基礎にもなります。
設備ごとの詳細な点検・更新スケジュール

受変電設備の点検および更新時期
受変電設備は、企業活動を支える電力の要です。正常な稼働を維持するためには、定期的な点検および計画的な更新が不可欠です。
設備項目 | 点検内容 | 法定点検頻度 | おすすめ点検・更新周期 |
---|---|---|---|
受電設備全般(キュービクルなど) | 絶縁状態・外観・機器動作確認 | 年1回以上(電気事業法) | 3~6か月毎点検、15~20年で更新を検討 |
変圧器 | 絶縁油試験・温度上昇・騒音・漏洩確認 | 年1回以上 | 経年15~20年で更新目安 |
遮断器・断路器 | 操作・接点・動作確認 | 年1回以上 | メーカー推奨年数(10~20年)の更新推奨 |
受変電設備の劣化は発熱や放電、火災の原因となるため、メーカー推奨時期や実際の劣化状況を踏まえた定期的な更新計画が求められます。
非常用発電機・蓄電池のスケジュール
非常用発電機と蓄電池は、停電や災害時に建物や事業継続に不可欠です。機能不全を防ぐため、日常から年次まで多段階で点検・試験を実施しましょう。
設備項目 | 点検内容 | 法定点検頻度 | 推奨点検・更新周期 |
---|---|---|---|
非常用発電機 | 始動・発電・負荷運転、燃料・冷却水・オイル・部品の確認 | 毎月1回(消防法)、負荷試験は年1回 | 10~15年で発電機本体更新、消耗部品は都度 |
蓄電池 | 電圧・比重・外観・端子の緩み、放電試験 | 年1回(消防法) | 5~7年で更新、劣化の兆候で早期交換 |
非常用設備の不具合は、緊急時に重大な被害を招きます。備蓄燃料や始動バッテリーも定期交換し、試運転を必ず実施して記録を残しましょう。
分電盤や配線、照明設備の見直しポイント
分電盤・配線・照明設備も長期使用や環境変化による劣化が避けられません。事故やトラブルの未然防止のため、老朽化の兆候が出る前に点検・刷新計画を立てることが重要です。
設備項目 | 主な点検内容 | 推奨点検周期 | 更新目安 |
---|---|---|---|
分電盤 | ブレーカー・配線端子・絶縁測定・外観 | 半年~1年ごと | 15~20年で交換・更新 |
電気配線 | 絶縁抵抗測定・損傷や過熱の有無・敷設状態 | 年1回以上 | 25~30年で全面改修も検討 |
照明設備 | 点灯・消耗部品の確認・蛍光灯・LEDランプの寿命監視 | 半年ごとに確認 | 蛍光灯は8~10年目、LEDは10~15年目で更新 |
分電盤や配線は経年劣化やトラッキング火災のリスクがあり、漏電ブレーカーや安全装置もあわせて点検・更新しましょう。照明器具は省エネ・高効率化の観点からも、定期的な見直しとLEDなどの導入が推奨されます。
設備ごとに特性と法的要件に応じた点検・更新スケジュールを作成し、計画的な運用・記録を徹底することが、企業の安定稼働とリスク回避につながります。
点検・更新スケジュールの作成手順と管理方法

企業の電気設備の安定稼働と安全を確保するためには、計画的な点検・更新スケジュールの策定と的確な管理が不可欠です。以下のプロセスに基づく管理方法を導入することで、法令順守とコスト最適化、事故リスクの低減を図ることができます。
設備台帳の活用と記録方法
設備台帳の整備は、点検・更新計画を効率的に管理するための基盤となります。設備台帳には、設備ごとにメーカー名・設置日・仕様・法定点検周期・更新履歴・故障履歴などの情報を詳細に記載します。これにより、点検漏れや更新時期の把握が容易になり、設備ごとの状態を常に把握することが可能です。
設備名 | 設置年月日 | 型式・メーカー | 点検周期 | 最終点検日 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
受変電設備 | 2018年4月 | 三菱電機 PF3-220 | 年1回 | 2024年2月 | 次回点検2025年2月予定 |
非常用発電機 | 2016年6月 | ヤンマー YDG300VS-6E | 半年に1回 | 2024年3月 | 負荷試験済 |
分電盤 | 2019年1月 | 日東工業 S22-1212 | 年1回 | 2024年2月 | 次回更新時期2029年目安 |
記録は紙媒体だけでなく、Excelや設備管理専用ソフトウェアなどのデジタルデータで管理すると、多拠点管理や履歴分析がしやすくなります。
管理システム・ソフトウェアの導入
電気設備の点検・更新スケジュールを正確に把握し、管理ミスを防ぐためには、専用の管理システムやソフトウェアの導入が有効です。代表的なものには、「Assetment Neo」「IME4000」「Facility-Keeper」などがあります。
- スケジュール自動生成や通知機能を利用し、点検・更新のタイミングを見落とし防止
- 設備ごとの履歴情報・傾向分析機能で劣化傾向や異常傾向を把握、予防保全が容易に
- 各設備のリスク優先度に応じた対応順位の見える化
システムは、クラウド型(SaaS)やオンプレミス型など、運用形態に合わせて選択することができます。導入時には既存データとの連携や運用コスト、ユーザー数なども考慮しましょう。また、定期的なバックアップや担当者同士の情報共有体制も重要なポイントです。
外部業者選定のポイントと委託先活用
企業内で点検・更新管理を完結させることが難しい場合、専門業者への委託が現実的な選択肢となります。業者選定の際は、以下のポイントを押さえましょう。
- 電気工事士や第1種電気主任技術者など有資格者の在籍状況
- 点検・保守の実績および緊急時対応力(実績年数や業界認証取得状況等)
- 作業後の報告書・データ提出体制と記録のデジタル化への対応
- 長期委託契約によるコスト最適化や定期スケジュールの自動提案等のサービス内容
委託先をうまく活用することで、専門的な知見の導入・法改正対応の迅速化・定期点検漏れの防止・障害発生時の迅速な復旧サポートなど、企業運用上のリスク低減と安全性向上を実現できます。委託範囲や責任分界点を明確化し、継続的なコミュニケーションを図ることも重要です。
法定点検や更新を怠るリスクとトラブル事例

企業における電気設備の法定点検や適切な更新を怠ることは、設備の故障や火災などの重大事故、事業停止に直結する非常に大きなリスクです。ここでは、主なリスクと実際に発生したトラブル事例について詳しく解説します。
停電・設備故障などの重大リスク
電気設備の定期点検を行わない場合、劣化や不具合に気づかず、ある日突然停電や電圧異常、機器の焼損などのトラブルが発生する恐れがあります。これにより、オフィス業務や生産ラインが停止し、多大な損失が発生する可能性があります。
漏電・火災の発生リスク
配線や分電盤、受変電設備の絶縁劣化、接点の緩みなどの不具合を放置すると漏電が発生し、最悪の場合は火災に至ることもあります。特に古い電気設備ではリスクが高く、従業員や近隣への被害も甚大です。
法令違反による罰則や行政指導
電気事業法や労働安全衛生法、および消防法では、対象の電気設備について点検や更新を義務付けています。これらを怠った場合、所轄官庁による業務停止命令、改善命令、罰則金などの行政処分が科される可能性があります。また、社会的信用の失墜にもつながります。
実際のトラブル事例
事例 | 未実施内容 | 発生したトラブル | 被害・影響 |
---|---|---|---|
大手製造業工場 | 受変電設備の絶縁抵抗測定未実施 | 高温下で絶縁破壊が発生し短絡、停電 | 全工場操業停止(2日間)、損害額数億円 |
ビル管理会社 | 照明分電盤の緩み点検忘れ | 接触不良による分電盤焼損 | 階全域の停電、テナント営業停止・損害賠償請求 |
小売チェーン店舗 | 非常用発電機の負荷試験未実施 | 地震時に発電機故障で電源供給不能 | 避難誘導・防災機能停止、行政指導・罰則 |
倉庫事業者 | 自主点検周期の超過・記録漏れ | 漏電火災が発生し倉庫消失 | 在庫商品の全損、取引先から損害賠償請求 |
起こり得る訴訟・保険適用外リスク
設備の不備や点検漏れに起因する事故では、従業員や周囲への人的・物的被害が拡大する可能性も高まります。保険契約上、法定点検義務違反があれば保険金が支払われないケースも少なくありません。さらに、事故による損害賠償請求や訴訟リスクの増大は事業存続に大きな影響を与えます。
まとめと教訓
電気設備の点検・更新を定期的かつ確実に実施することは、法令順守と安全確保だけでなく、事業継続性や社会的信頼の確保にも直結します。トラブルやリスクを未然に防ぐためには、今一度スケジュール管理と適切な維持管理体制の構築を徹底すべきです。
電気設備点検と更新に関するよくある質問

電気設備の点検はどのくらいの頻度で行う必要がありますか?
電気設備の点検頻度は設備の種類や規模、法令によって異なりますが、高圧受変電設備の場合、電気事業法により年1回以上の法定点検が必要とされています。
一般的な低圧設備についても、労働安全衛生法や消防法の規定に基づき定期的な自主点検が求められます。設備台帳とあわせ、法令や設備ごとのマニュアルを必ず確認しましょう。
法定点検と自主点検は何が違うのですか?
法定点検は、電気事業法・労働安全衛生法・消防法などの法律に基づき、決められた周期や内容で実施が義務付けられている点検です。点検結果の記録と保存、場合によっては報告が必要です。
自主点検は、事業者自身の安全管理体制において自発的に行う点検であり、点検頻度や内容は各施設の状況に応じて定めますが、巡視点検(目視点検)や異常兆候のチェックなど日常的な確認を含みます。
電気設備更新の目安となる寿命はどのくらいですか?
一般的に、受変電設備の主要機器(変圧器・遮断器など)は15~20年程度が更新目安とされますが、設置環境やメンテナンス状況、メーカーごとの仕様によって前後します。非常用発電機や蓄電池は10~15年程度、照明器具や分電盤も10~15年が一つの目安です。
詳細は設備ごとの取扱説明書やメーカー指示書、日本産業規格(JIS)を必ず確認してください。
外部業者に点検・更新を委託する場合の選び方は?
選定ポイントとして、第一種・第二種電気工事士などの有資格者が在籍しているか、過去の点検・工事実績や緊急時の対応力、見積り内容の明確さや作業報告書の充実度が挙げられます。見積もりを複数社から取り比較することが推奨されます。
点検や更新作業を記録する際の注意点は?
点検や更新作業の記録は設備台帳や専用の管理ソフトウェアに入力し、実施日・作業内容・担当者名・発見された不具合と対応内容を詳細に記録します。法令で定められた保存期間(一般に3~5年)に従い保管しましょう。適切な記録管理によってトラブルや事故発生時の迅速な対応が可能となります。
停電や火災など、トラブルが起きた場合の初動対応はどうすれば良いですか?
トラブル状況 | 初動対応例 | 注意点 |
---|---|---|
停電 | 安全確認後、分電盤や受変電設備の異常有無を目視点検。原因不明時は専門業者に連絡。 | 設備に触れる際は必ず手袋を着用し、通電復旧の前に再点検。 |
漏電 | 直ちに当該回路の遮断器を開放。不明な場合は全体を遮断し、専門業者へ。 | 濡れた手や足で絶対に機器に触れない。2次被害を防止。 |
発煙・火災 | 初期消火装置を使用し消火。安全を確保し避難誘導・119番通報。 | 電源が生きている状態では水消火器を使用しない。通電遮断。 |
点検・更新作業の費用相場はどのくらいですか?
費用は設備規模や内容、地域や業者ごとに変動します。例として、高圧受変電設備の法定点検は1回あたり5万円~20万円程度です。更新工事や部品交換となると数十万円~数百万円規模になることもあります。事前に複数社へ見積依頼の上、必要事項を明確にして比べることが重要です。
古い設備でも、点検・更新を怠っていなければ使い続けても良いのですか?
設備が法定点検やメーカーの推奨点検を確実に行われており、異常や劣化の兆候がなければそのまま使用は可能です。ただし、経年劣化や技術進歩による省エネ・安全性向上の観点からも、定期的な更新を推奨します。設備の一部に不具合・トラブルが見つかった際には、早めに専門業者と相談し、計画的なリニューアルを検討しましょう。
電気設備点検や更新で遵守するべき主な法律・規格は?
主に遵守すべき法令は、電気事業法、労働安全衛生法、消防法などです。規格には日本産業規格(JIS)や、各メーカー規定、自治体条例も関係します。最新の法改正やガイドラインを必ず確認の上、適切な対応をしてください。
まとめ

電気設備の点検・更新スケジュールは、企業の安全と事業継続に直結する極めて重要な管理事項です。電気事業法や労働安全衛生法などに基づく定期点検を確実に実施し、設備台帳や管理システムを用いて記録・管理を徹底することで、法令違反や重大な事故を未然に防ぎましょう。