ビルのオーナー様や施設の管理者様、「自社の電気設備がいつ設置されたものか」を正確に把握されていますか?普段は問題なく稼働しているように見える電気設備も、見えないところで経年劣化は確実に進行しています。耐用年数を超えた設備をそのまま使い続けることは、突然の停電による事業停止や、火災・漏電といった重大事故のリスクを抱え込むことになりかねません。
本記事では、建物の安全と事業継続に不可欠な電気設備の耐用年数について、税務上の「法定耐用年数」と、実際の寿命の目安となる「物理的耐用年数(推奨更新時期)」との違いを明確に解説します。さらに、キュービクル(高圧受電設備)内の変圧器や遮断器から、分電盤、配線、照明器具に至るまで、主要な設備ごとの具体的な耐用年数の一覧、放置した場合の3つの重大リスク、法律で定められた点検のポイント、そして最適な更新(リニューアル)のタイミングまで、専門的な知識を網羅的にご紹介します。
この記事を最後までお読みいただくことで、自社の電気設備の状態を正しく評価し、事故を未然に防ぐための具体的なアクションプランを立てられるようになります。結論として、電気設備の安全管理においては、法定耐用年数を一つの参考にしつつも、各機器メーカーが示す推奨更新時期を目安に、計画的な点検と更新を行うことが最も重要です。
電気設備の耐用年数とは 法定耐用年数との違いを解説
建物の安全性と機能性を維持する上で、電気設備の管理は非常に重要です。その管理の指標となるのが「耐用年数」ですが、この言葉には大きく分けて2つの意味があることをご存知でしょうか。それは「法定耐用年数」と「物理的耐用年数(推奨更新時期)」です。この2つは目的も年数も全く異なるため、混同してしまうと適切な資産管理や安全対策の計画が立てられません。ここでは、それぞれの耐用年数の意味と違いを詳しく解説します。
税務上の資産価値を示す法定耐用年数
法定耐用年数とは、税法上で定められた、減価償却を計算するための年数のことです。建物や設備などの固定資産は、年月の経過とともにその価値が減少していきます。その価値の減少分を、法律で定められた年数にわたって分割し、毎年の経費として計上する会計処理が「減価償却」です。
電気設備は「建物附属設備」に分類され、国税庁が定める「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」によって、その構造や用途に応じて法定耐用年数が決められています。例えば、一般的な事務所や店舗などの「電気設備(照明設備を含む)」の法定耐用年数は15年とされています。
しかし、ここで最も注意すべき点は、法定耐用年数が「設備の寿命」を直接示すものではないということです。あくまで税務会計上のルールであり、この年数を経過したからといって、すぐに設備が使えなくなるわけではありません。逆に、法定耐用年数内であっても、使用状況によっては故障することもあります。
実際の寿命に関わる物理的耐用年数(推奨更新時期)
物理的耐用年数とは、電気設備が安全かつ正常に機能し続けられる、実際の寿命の目安となる期間を指します。これは、製造メーカーが設計上想定した使用期間や、一般社団法人 日本電設工業協会(JEMA)などの業界団体が、過去のデータや劣化診断の結果に基づいて示している「更新推奨時期」が該当します。
この物理的耐用年数は、設備の経年劣化だけでなく、設置されている環境(温度、湿度、塵埃、腐食性ガスなど)や使用頻度、メンテナンスの状況といった様々な要因に大きく影響されます。そのため、同じ設備であっても設置場所や使い方によって寿命は変わってきます。
建物の安全を確保し、予期せぬトラブルを防ぐためには、税務上の法定耐用年数だけでなく、この物理的耐用年数(推奨更新時期)を基準に、点検や更新計画を立てることが極めて重要です。
法定耐用年数と物理的耐用年数の違いをまとめると、以下のようになります。
| 項目 | 法定耐用年数 | 物理的耐用年数(推奨更新時期) |
|---|---|---|
| 目的 | 減価償却計算(税務上の資産価値の算出) | 安全性・機能性の維持、故障リスクの管理 |
| 基準 | 法律(税法)に基づく一律の年数 | 機器の設計、材料の劣化、使用環境などを考慮した実質的な寿命 |
| 年数の意味 | 会計上の資産価値がゼロになるまでの期間 | 安全に使用できる限界、または更新を推奨する時期の目安 |
| 根拠 | 国税庁「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」 | 製造メーカーの設計、業界団体の調査データなど |
【一覧】主要な電気設備の耐用年数と更新の目安
建物の電気設備は多種多様な機器で構成されており、それぞれに寿命があります。ここでは、主要な電気設備の「物理的耐用年数」、つまり安全に使用するための更新推奨時期の目安を一覧でご紹介します。これらは税務上の「法定耐用年数」とは異なり、実際の設備の劣化状態や安全性を考慮した年数です。使用環境やメンテナンス状況によって変動するため、あくまで目安として参考にしてください。
高圧受電設備(キュービクル)の耐用年数
高圧受電設備(キュービクル)は、電力会社から供給される高圧の電気(6,600V)を、建物内で使用できる低圧の電気(100V/200V)に変換するための重要な設備です。キュービクルは一つの箱に見えますが、内部は変圧器や遮断器など多くの機器で構成されており、それぞれ耐用年数が異なります。設備全体の推奨更新時期は15年〜20年が一般的ですが、構成機器ごとの管理が不可欠です。
変圧器(トランス)
変圧器(トランス)は、電圧を変換するキュービクルの心臓部です。種類によって耐用年数が異なります。
| 変圧器の種類 | 推奨更新時期の目安 |
|---|---|
| 油入変圧器 | 20年~25年 |
| モールド変圧器 | 15年~20年 |
| 乾式変圧器 | 15年~20年 |
特に油入変圧器は、内部の絶縁油の劣化が性能低下や故障に直結します。油漏れや異音、異常な発熱が見られる場合は、耐用年数に関わらず速やかな点検・交換が必要です。
高圧遮断器・開閉器
電気回路を安全に開閉したり、ショート(短絡)などの事故が発生した際に電流を瞬時に遮断したりする重要な保護装置です。種類や開閉回数によって寿命が異なります。
| 機器の種類 | 推奨更新時期の目安 |
|---|---|
| 真空遮断器(VCB) | 15年~20年(または規定開閉回数) |
| 高圧交流負荷開閉器(LBS) | 15年 |
| 断路器(DS) | 20年~30年 |
これらの機器は、電気事故の被害を最小限に食い止めるための重要な役割を担っています。動作不良は大規模な停電や波及事故に繋がるため、定期的な点検と計画的な更新が求められます。
保護継電器(リレー)
保護継電器(リレー)は、電圧や電流の異常を検知し、遮断器に「切れ」という指令を出す、いわば電気設備の司令塔です。電子部品で構成されているため、経年劣化は避けられません。
| リレーの種類 | 推奨更新時期の目安 |
|---|---|
| 静止形リレー | 15年~20年 |
| ディジタル形リレー | 15年 |
| 誘導形リレー(旧式) | 20年~30年(※早期更新を推奨) |
保護継電器の故障は、異常が発生しても電気が止まらないという最悪の事態を招きます。火災や機器の焼損に直結する非常に危険な状態となるため、耐用年数内の更新が強く推奨されます。
低圧電気設備の耐用年数
キュービクルで低圧に変換された後、照明やコンセント、各種動力設備へ電気を供給するための設備です。私たちの生活や業務に直接関わる身近な設備が多く含まれます。
配電盤・分電盤・制御盤
建物内の各フロアやエリアに必要な電気を分配するための設備です。内部には多数のブレーカー(配線用遮断器、漏電遮断器)が収められています。
| 機器の種類 | 推奨更新時期の目安 |
|---|---|
| 盤の箱(筐体) | 20年~30年 |
| 配線用遮断器(ブレーカー) | 10年~15年 |
| 漏電遮断器(ELB) | 10年~15年 |
| 電磁接触器・開閉器 | 10年(または規定開閉回数) |
盤本体よりも、内部のブレーカー類の寿命が先に訪れます。ブレーカーは見た目に変化がなくても内部の電子部品や機械部品が劣化し、いざという時に動作しない可能性があります。漏電や過負荷から人命や財産を守るため、定期的な交換が不可欠です。
配線・ケーブル類
電気を建物内の隅々まで届ける血管のような存在です。普段は壁や天井裏に隠れており、劣化状態を確認しにくいのが特徴です。
| 配線の種類 | 推奨更新時期の目安 |
|---|---|
| 屋内配線(VVFケーブルなど) | 20年~30年 |
| 電力ケーブル(CVケーブルなど) | 20年~30年 |
これらの年数は、紫外線や熱、水分の影響が少ない良好な環境下での目安です。特に屋外や高温多湿な場所に敷設されたケーブルは劣化が早く、被覆が硬化・ひび割れを起こし、漏電や火災の原因となります。
照明器具・コンセント・スイッチ
日常的に最も触れる機会の多い電気設備です。使用頻度が高いため、劣化も進みやすい傾向にあります。
| 機器の種類 | 推奨更新時期の目安 |
|---|---|
| 照明器具(安定器・LED電源含む) | 8年~15年 |
| コンセント・スイッチ | 10年 |
LED照明が普及していますが、光源の寿命が長くても、内蔵されている電源ユニットは先に寿命を迎えることがあります。コンセントやスイッチは、内部の金属部品の劣化により接触不良や異常発熱を起こす危険性があります。ぐらつきや変色、操作感の異常を感じたら、すぐに交換を検討しましょう。
電気設備の耐用年数超過を放置する3つの重大リスク
電気設備の耐用年数は、単なる税務上の数字ではありません。それは、設備が安全に性能を発揮できる期間の目安であり、この期間を超えて使用し続けることには、深刻なリスクが伴います。見た目には問題がなくても、内部の絶縁材や部品は確実に劣化が進行しています。ここでは、耐用年数を超過した電気設備を放置することで引き起こされる、3つの重大なリスクについて詳しく解説します。
火災や漏電事故のリスク
耐用年数超過による最大のリスクは、人命や財産を脅かす火災や漏電事故です。長年の使用により、電気設備は目に見えないところで劣化し、事故の火種となります。
主な原因は以下の通りです。
- 絶縁性能の低下: 電線やケーブルを覆うビニールやゴムなどの絶縁体は、熱や湿気、紫外線などの影響で時間とともに硬化し、ひび割れを起こします。このひび割れから電気が漏れる「漏電」が発生し、人が触れれば感電事故に、近くに可燃物があれば火災につながります。
- 接続部の緩み・腐食: 電気設備内の配線を固定しているネジや端子は、温度変化による金属の膨張・収縮や、建物の振動によって徐々に緩みます。接続部が緩むと接触抵抗が増大し、異常な発熱を起こして発火の原因となります。
- 埃と湿気によるトラッキング現象: 分電盤やコンセントの内部に溜まった埃が湿気を吸うと、電気の通り道ができてしまいます。そこに電気が流れることで発熱・発火する「トラッキング現象」は、電気火災の主要な原因の一つです。
これらの要因が複合的に絡み合い、ある日突然、分電盤から出火したり、漏電遮断器が作動して停電したりといった事態を引き起こします。特に、人の目が届きにくい天井裏の配線や、壁の中のコンセントボックス内でのトラブルは発見が遅れ、初期消火が困難な大規模火災に発展する危険性が極めて高くなります。
突然の停電と事業停止のリスク
劣化した電気設備は、何の前触れもなく突発的に故障し、建物全体の停電を引き起こす可能性があります。現代のビジネスにおいて、電気はオフィス、工場、店舗など、あらゆる活動の生命線です。予期せぬ停電は、事業活動そのものを停止させ、深刻な経済的損失をもたらします。
例えば、高圧受電設備(キュービクル)内の変圧器(トランス)や遮断器が故障すれば、復旧には数時間から数日を要することも珍しくありません。その間、事業は完全にストップしてしまいます。
事業形態によって、停電がもたらす影響は様々です。
| 業種 | 停電による主な影響 |
|---|---|
| オフィスビル | PC・サーバーの停止による業務中断、データ損失、電話・ネットワークの不通、エレベーターの停止 |
| 工場・倉庫 | 生産ラインの完全停止、製造途中の製品の破棄、納期遅延による信用失墜、冷凍・冷蔵倉庫の品質劣化 |
| 商業施設・店舗 | レジ・POSシステム停止による販売機会の損失、照明・空調停止による営業中断、防犯システムの停止 |
| 病院・介護施設 | 生命維持装置など医療機器の停止、電子カルテの閲覧不可、手術の中断など、人命に関わる重大な事態 |
このように、たった一度の停電が、売上機会の損失だけでなく、顧客からの信頼を失う原因にもなり得ます。事業継続計画(BCP)の観点からも、電気設備の計画的な更新は不可欠な経営課題と言えるでしょう。
波及事故による損害賠償のリスク
「波及事故」とは、自社の敷地内にある高圧受電設備の故障が原因で、電力会社の配電線を通じて近隣の他の建物や施設まで停電させてしまう事故のことです。これは、自社の損害だけでは済まない、極めて社会的な影響の大きいトラブルです。
波及事故の主な原因は、キュービクル内に設置されている保護継電器(リレー)や遮断器の経年劣化による作動不良です。本来であれば、自社設備で異常が発生した際に、これらの保護装置が瞬時に作動し、事故を自社の敷地内で食い止める(これを「保護協調」と呼びます)はずです。しかし、耐用年数を超えて劣化した装置は、いざという時に正常に機能せず、事故電流が電力会社の配電網へと流れ出てしまうのです。
ひとたび波及事故を起こしてしまうと、以下のような深刻な事態に直面します。
- 広範囲への電力供給停止: 周辺の工場、オフィスビル、店舗、さらには一般家庭まで巻き込む大規模な停電を引き起こします。
- 莫大な損害賠償請求: 停電によって営業を停止せざるを得なかった近隣の企業や店舗から、逸失利益などに対する損害賠償を請求される可能性があります。その額は、停電の規模や時間によっては数千万円から億単位に上るケースも存在します。
- 社会的信用の失墜: 地域社会に多大な迷惑をかけた企業として、社会的信用を大きく損なうことになります。
電気設備の適切な維持管理は、電気事業法で定められた需要家の義務です。耐用年数を無視した設備の運用は、法令遵守の観点からも問題があり、万が一事故を起こした際の経営責任は非常に重いものとなります。
建物の電気設備を守るための点検のポイント
電気設備の耐用年数は、あくまで適切なメンテナンスが行われていることが前提です。どんなに優れた設備でも、点検を怠れば寿命は縮まり、思わぬトラブルを引き起こす原因となります。建物の資産価値と安全を守るためには、計画的かつ継続的な点検が不可欠です。電気設備の点検は、大きく分けて「法定点検」「自主点検」「精密点検」の3つに分類されます。それぞれの役割を理解し、適切に実施することが重要です。
法律で定められた法定点検(保安点検)
高圧で受電するビルや工場、商業施設などの「自家用電気工作物」は、電気事業法により、国が定める技術基準に適合しているかを定期的に確認するための保安点検(法定点検)が義務付けられています。この点検は、感電や火災、波及事故といった重大な事故を未然に防ぐための生命線であり、有資格者である電気主任技術者(外部委託の場合は保安法人など)が実施します。主な法定点検には「月次点検」と「年次点検」があります。
| 点検種別 | 頻度 | 主な点検方法 | 主な点検内容 |
|---|---|---|---|
| 月次点検 | 原則として毎月1回 | 原則、無停電で実施 | 外観点検(変形、損傷、錆、油漏れの有無)異音、異臭、異常な発熱の確認電圧・電流・電力などの測定と記録漏洩電流の測定キュービクル周囲の環境確認 |
| 年次点検 | 原則として毎年1回 | 原則、全館停電で実施 | 月次点検の項目に加えた詳細な点検各機器の内部清掃および精密な外観点検絶縁抵抗測定保護継電器の動作試験各種機器の締め付けトルク確認 |
月次点検が設備の日常的な健康状態をチェックする「問診」だとすれば、年次点検は停電して内部まで詳しく調べる「精密検査」にあたります。これらの法定点検を確実に実施し、その記録を保管することは、建物の所有者や管理者に課せられた重要な責務です。
日常的に行うべき自主点検のチェックリスト
法定点検は専門家による定期的な診断ですが、それだけでは十分ではありません。日々の設備の小さな変化にいち早く気づくためには、建物の管理者や担当者による「自主点検」が極めて重要です。専門的な知識がなくても、五感を使って確認できる項目は数多くあります。異常の早期発見が、大きな事故や故障を防ぐ第一歩となります。以下に、日常的に確認すべき自主点検のチェックリスト例を挙げます。
| 点検場所 | チェック項目 | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 受変電設備(キュービクル)周辺 | 異音・異臭 | 「ブーン」という正常なうなり音以外の音(パチパチ、ジージーなど)や、焦げ臭いにおいがないか。 |
| 外観 | 扉の変形や錆、破損、雨漏りの形跡、油のにじみや漏れがないか。 | |
| 施錠・表示 | 扉は確実に施錠されているか。「高圧危険」などの表示が明確に見えるか。 | |
| 周辺環境 | 換気口を塞いでいないか。周囲に燃えやすいものや障害物が置かれていないか。 | |
| 配電盤・分電盤 | 異音・異臭・熱 | 盤内から異音や異臭がしないか。扉に触れてみて、異常な熱を持っていないか。 |
| 外観 | 盤の扉や本体に破損や変形、錆がないか。 | |
| 表示 | ブレーカーの表示(回路名など)が消えたり、剥がれたりしていないか。 | |
| 照明器具・コンセント・スイッチ | 動作状況 | 照明の点滅やちらつき、点灯しないといった不具合はないか。スイッチの操作感に異常はないか。 |
| 外観 | コンセントやスイッチプレートに、ひび割れや変色(焦げ跡など)はないか。 |
これらの点検を定期的に(例えば週に1回など)行い、チェックシートに記録を残すことをお勧めします。もし少しでも異常を感じた場合は、決して自己判断で対処せず、速やかに契約している保安法人や電気工事会社などの専門業者に連絡してください。
専門業者による精密点検の重要性
法定点検と自主点検に加えて、設備の健全性をより深く評価するために「精密点検(精密診断)」があります。これは法定点検の項目をさらに掘り下げ、専用の測定機器を用いて劣化状況を詳細に分析するもので、いわば電気設備の「人間ドック」です。特に、耐用年数が近づいてきた設備や、更新計画を具体的に検討する段階では、この精密点検が非常に重要になります。
精密点検では、次のような専門的な診断が行われます。
- 赤外線サーモグラフィ診断:電気を流したままの状態で、機器の温度分布を撮影します。これにより、接続部の緩みや接触不良によって生じる異常な発熱箇所を、目視では発見できないレベルで特定できます。
- 絶縁劣化診断:変圧器の絶縁油を採取・分析し、劣化度やPCB(ポリ塩化ビフェニル)の含有有無を調査します。また、ケーブルの絶縁性能を詳細に測定し、劣化の進行度を評価します。
- 保護継電器の動作特性試験:年次点検で行う動作試験よりもさらに詳細な試験を行い、万が一の事故の際に継電器が設計通りの時間・感度で正確に作動するかを精密に検証します。
- 遮断器の性能診断:遮断器の開閉時間や動作特性を測定し、内部機構の劣化や性能低下がないかを確認します。
これらの精密点検の結果をもとに、設備の余寿命を予測したり、どの機器から優先的に更新すべきかといった、精度の高い長期修繕計画を策定することが可能になります。法定点検だけでは見えてこない潜在的なリスクを洗い出し、計画的かつ経済的な設備更新を実現するために、専門業者による精密点検の活用を検討しましょう。
電気設備の更新(リニューアル)を検討するタイミング
電気設備は、建物の血管や神経に例えられるほど重要なインフラです。しかし、永遠に使い続けられるわけではありません。故障してから対応する「事後保全」では、事業停止などの甚大な被害につながる可能性があります。ここでは、事故を未然に防ぎ、建物の資産価値を維持するために、電気設備の更新(リニューアル)を検討すべき3つの主要なタイミングについて具体的に解説します。
耐用年数が近づいている
最も基本的で重要な更新のタイミングは、設備の物理的耐用年数(推奨更新時期)が近づいてきたときです。税法上の法定耐用年数が経過しても設備は稼働し続けますが、それはあくまで減価償却の計算上の期間であり、安全に使える期間を保証するものではありません。メーカーが推奨する更新時期や、業界団体が示す物理的耐用年数を目安に、計画的な更新を検討することが不可欠です。
自社の設備がいつ設置されたものか、いつ耐用年数を迎えるのかを把握するために、「設備台帳」を整備し、定期的に確認する習慣をつけましょう。耐用年数が近づいてきたら、すぐに交換するのではなく、計画的に準備を進めることが重要です。以下に、更新計画のスケジュールの目安を示します。
| タイミング(耐用年数から逆算) | 実施すべきこと | ポイント |
|---|---|---|
| 3〜5年前 | 情報収集・長期修繕計画の策定 | 最新の設備情報(省エネ性能など)を収集し、大まかな予算感を把握します。複数の専門業者から話を聞き始めるのも良いでしょう。 |
| 2〜3年前 | 現地調査・見積もり取得・業者選定 | 専門業者に詳細な現地調査を依頼し、具体的な更新計画と見積もりを取得します。複数の業者を比較検討し、信頼できるパートナーを選定します。 |
| 1〜2年前 | 予算化・正式発注 | 社内で予算を確保し、正式に業者へ発注します。キュービクルなどの大型設備は受注生産品が多く、納期に数ヶ月から1年以上かかる場合もあるため、早めの発注が肝心です。 |
| 耐用年数到達 | 更新工事の実施 | 事業への影響が最小限になるよう、休業日や夜間などを利用して計画的に工事を実施します。 |
このように、耐用年数を見据えて数年前から準備を始めることで、予算の確保や工事業者の選定、生産リードタイムなどを考慮した、無理のないスムーズな設備更新が可能になります。
不具合や故障が頻発する
耐用年数の到来を待たずとも、設備に不具合や故障の兆候が見られる場合は、更新を検討すべき危険なサインです。小さな不具合だからと修理を繰り返していると、ある日突然、大規模な停電や事故につながる恐れがあります。以下のような症状が見られたら、速やかに専門家による詳細な点検を依頼しましょう。
- 異音・異臭:変圧器(トランス)のうなり音が以前より大きくなった、分電盤から「ジー」という異音がする、焦げたような臭いがする。
- 外観の劣化:キュービクルや分電盤の筐体に錆や腐食が見られる、配線ケーブルの被覆にひび割れや硬化、変色がある。
- 過熱:分電盤やコンセント、スイッチ部分が触ると熱を持っている。
これらの症状は、部品の経年劣化や内部の接続不良など、様々な原因によって引き起こされます。修理費用がかさむようになった場合、それは設備全体の寿命が近い証拠かもしれません。部分的な修理を繰り返すよりも、設備全体をリニューアルした方が、長期的な安全性とコストパフォーマンスの観点から有利になるケースが多くあります。
省エネ化や機能向上を図りたい
現在、設備に大きな問題がなくても、より高い省エネ性能や付加価値を求めて更新を検討するケースも増えています。これは、単なる設備の維持管理にとどまらず、企業の競争力強化や不動産価値の向上につながる「攻めの投資」と言えます。
主な目的として、以下のようなものが挙げられます。
- 省エネルギー化によるランニングコスト削減
技術の進歩により、最新の電気設備はエネルギー効率が格段に向上しています。例えば、旧式の変圧器を「トップランナー変圧器」に更新することで電力損失を大幅に削減したり、照明を蛍光灯からLED照明に全面的に切り替えたりすることで、月々の電気料金を大幅に削減することが可能です。初期投資はかかりますが、ランニングコストの削減によって数年で回収できる場合も少なくありません。国や自治体の省エネ関連の補助金を活用できる可能性もあります。 - BCP(事業継続計画)対策の強化
自然災害や予期せぬ停電が発生した際に、事業への影響を最小限に抑えるための投資です。非常用発電機やUPS(無停電電源装置)を新たに導入したり、老朽化したものを更新したりすることで、万が一の事態でも重要な業務を継続できる体制を構築できます。 - 生産性・安全性の向上
工場の生産ライン増設などに伴い、電力容量が不足する場合、受変電設備の増強や更新が必要になります。また、より高機能な保護継電器や高感度の漏電遮断器を導入することで、設備の保護能力を高め、従業員や利用者の安全性をさらに向上させることも重要な目的です。
このように、電気設備の更新は、故障を防ぐという守りの側面だけでなく、コスト削減や事業継続性の確保といった、企業の価値を高めるための戦略的な投資と捉えることができます。自社の経営課題や将来の事業計画と照らし合わせ、最適なタイミングで更新を検討することが重要です。
まとめ
本記事では、電気設備の耐用年数について、法定耐用年数と物理的耐用年数の違いから、主要な設備の更新目安、そして耐用年数を超過して使用し続けることの重大なリスクまでを解説しました。電気設備の耐用年数は、税務上の資産価値を示す「法定耐用年数」とは別に、安全に使用できる限界を示す「物理的耐用年数(推奨更新時期)」が存在します。
耐用年数を超えた電気設備を放置することは、火災や漏電、突然の停電による事業停止といった直接的な被害だけでなく、近隣施設を巻き込む「波及事故」を引き起こし、多額の損害賠償責任を負うリスクにも繋がります。これらの深刻な事態を未然に防ぐためには、電気設備の計画的な維持管理が不可欠です。
建物の安全を守り、安定した事業活動を継続するためには、法律で定められた保安点検はもちろん、日常的な自主点検、そして専門業者による精密な点検が重要となります。設備の不具合が頻発したり、省エネ化を図りたいと考えたりした時も、更新を検討する良いタイミングです。
まずはご自身の建物の電気設備がいつ設置されたものか、推奨される更新時期はいつなのかを把握することから始めましょう。そして、少しでも不安な点があれば、信頼できる専門業者に相談し、計画的な点検と更新を進めていくことを強くお勧めします。